GX推進法とGX脱炭素電源法

日本政府は、GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針を2月10日に閣議決定し、同日、「GX推進法案」を国会に提出し、2月28日には「原子力基本法」、「電気事業法」、「原子炉等規制法(炉規法)」、「使用済み燃料再処理法」、「再エネ特措法」の5つの法律の一部改正案を、「GX脱炭素電源法案」という1つの束(たば)ね法案 として閣議決定し、同日、国会に提出しました。「束ね法案」というのは、いくつかの法案をまとめて1本の法案として提出するもので、この「束ね法案」の問題点は、「民主主義に反する重大な手続違反」です。

今回の束ねられた5つの一部改正案は、ひとつひとつの改正内容が、エネルギー政策の根幹に関わるもので、私たちにとっても、将来世代にとっても極めて重要な法案です。これを「束ね法案」として、審議を簡略化し、拙速に成立させようという政府のやり方はあまりにも乱暴です。さらに、この「GX推進法案」や「GX脱炭素電源法案」には、以下のような重大な問題点を含んでいます。

原子力の「規制」も推進側の経産省に

従来、原子力規制委員会の権限であった原子炉の40年から60年への延長の認可権限を、この法案では経産大臣の権限に変えてしまっています。さらに、60年を超えて運転する場合の、運転を停止した期間についての認可権限も経産大臣になっています。

原子力規制委員会や原子力規制庁は、福島原発事故の反省を踏まえて、「経産省などの原子力利用側から、規制を明確に分離し、独立性、中立性を確保する」ために設置されたものです。平成24年1月31日付けの細野豪志環境大臣・原発事故の収束及び再発防止担当大臣の「原子力組織制度改革法案などの閣議決定に当たって」の文書には、「今回の改革は、事故の教訓を踏まえて、放射線から人の健康と環境を保護するという目的のために、規制制度・防災体制とこれを運用する行政組織について抜本改革を図るもの」とされ、「今般の改革で、経済産業省など原子力利用側からは明確に分離」するとされていました。また、「原子力規制委員会設置法 参議院付帯決議」でも、「原子力規制委員会は、原子力を推進する組織はもとより、独立性、中立性を確保するため、関係事業者等の外部関係者との接触などのルールを作り透明性を図る」とされています。ここで「原子力を推進する組織」とは経産省のことで、原発事故の原因は、「推進」と「規制」とが同じ経産省にあったことへの反省から、「推進」と「規制」の分離を図ったものです。

ところが、今回の改正案は、原発の運転期間の延長などの認可権限を、原発の利用側である経産省に戻すもので、福島原発事故の反省に真っ向から対立するものです。

原子力事業の安定が国の「基本的施策」?

原子力基本法の一部改正では、「電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても、原子力事業者が原子力施設の安全性を確保するために必要な投資を行うこと、その他の安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策」が「原子力利用に関する基本的施策」とされています。「原子力施設の安全性を確保するため」ならともかく、「安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備する」ことが基本的施策とは、どうしても原発を維持したいとの日本政府の思惑が如実に現れています。

GX経済移行債の発行

政府は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするためには今後10年で150兆円超の資金が必要として、官民合計の投資のうち、国の投資分にあたる20兆円程度を「GX経済移行債(脱炭素成長型経済構造移行債)」という国債を2023年度から発行するとしています。こうした資金の使い道を脱炭素事業に限定する国債は、EUやインド、韓国、インドネシアなどこれまで45カ国・地域が発行していますが、多くの例は再生可能エネルギーなどに使途を限定しています。ところが、GX経済移行債は原発関連を含むだけでなく、石炭火力のアンモニア混焼なども対象とすることが想定されています。さらに2023年度は原発の研究開発事業なども対象にするとされています。ここでも日本政府の原発存続の意図が明らかです。

GX基本方針の問題点

水素・アンモニアの導入促進

水素・アンモニアは、発電・運輸・産業など幅広い分野で活用でき、化石燃料と混焼できるとし、火力発電からのCO2削減に資するとされています。 水素もアンモニアも、現在は化石燃料由来で、製造時に大量のCO2を排出します。製造時にCO2を排出しないグリーン水素は、化石燃料由来の水素(グレー水素)に比べてコストが5~ 10倍になるとの指摘もあります。グリーンアンモニアも、現状ではグレーアンモニアに比べてコストが4倍を超えると言われます。そもそも、グリーン水素・グリーンアンモニアを石炭火力に混焼しても、 CO2の削減効果は限定的です。コストに対して効果が限定的なグリーン水素・グリーンアンモニアの導入を促進するより、再生可能エネルギーの普及に資金を投入するほうが、はるかに大きなCO2削減効果を生みます。

CCS(CO2回収・貯留)

CCSについても、事業環境を整備するため、模範となる先進性のあるプロジェクトの開発及び操業を支援し、制度的措置を準備するとしています。 しかし、CO2の分離・回収、輸送、圧入などの過程でCO2を排出するうえ 、日本には圧入する場所がありません。さらにCCSは高コストで採算性に大きな問題があります。水素・アンモニアの導入同様、このように高コストで実用化の目処のないCCSに資金を投入するより、低コストで実用化されている再生可能エネルギーの普及に資金を投入すべきです。

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