補論T. 森林部門 |
(1)森林部門における二酸化炭素の吸収・排出
森林部門における二酸化炭素の吸収・排出については、ストックとフローの両面からの考察が必要である。森林の成長は大気から森林へのCO2のフローであり、森林により固定されたCO2ストックの増大である。一方、森林伐採による森林蓄積の減少は、森林から社会へのCO2のフローであり、CO2ストックの減少である。したがって、@ストックを減らす方向のフローを減らし、Aストックを増やす方向のフローを増加させるという2つの政策が考えられる。
一般に排出削減政策という場合は、社会から大気への排出フローの量を減らすアプローチである。その意味で、森林政策と排出削減政策は対象・手法が異なり、独立して実行が可能である。
森林部門における二酸化炭素の吸収は、長期的には、CO2を固定するだけで、それを除去するものではない。したがって、森林部門における二酸化炭素の吸収は、CO2ストックを減らさないことを目的とした中期的政策と位置づけられる必要がある。
(2)森林部門におけるCO2吸収の現状
日本の森林は、1985〜1995年までの平均で、年間1,600万トンの二酸化炭素を吸収している。
森林におけるCO2ストックは、人工林が4.2億炭素トン、天然林が3.5億炭素トン、計7.7億炭素トンである。
森林そのもののストックは、1985年から1995年までの合計で10億m3増加した。これは、CO2ストック2億2,260万トンに相当する。人工林の大部分は戦後植林されたものであり、現在も伐採期に達していない木がかなり存在する。それらの樹木が成長した結果が、CO2ストックの増加として表れているものと考えられる。
(3)森林部門における吸収量・固定量増加の可能性
森林面積・蓄積は増加しているが、今後の見通しは決して明るくない。林野庁行政の下、「荒れている森を見たら国有林と思え」とまで言われるほど、森林の質も低下している。
多くの林業専門家は、2010年までに抜本的な手を打たなければ、日本の森林の劣化がかなりの速度で進行することを予測している。しかし一方で、必要な管理を行なえば、未成熟な森林を多く含む日本の人工林における蓄積は大幅に増加することが確実であると予測されている。
すべての種別の人工林で、民有人工林程度の蓄積を達成することが可能であると考えられる。下表の「増加ケース」は、国有人工林のヘクタールあたり蓄積が民有人工林並み(201m3/ha)になった場合のCO2固定量を示している。
「減少ケース」では、国有人工林の蓄積が現在の50%になった場合を想定している。このシナリオでは、国有人工林を現状のように放置しておくため、人工林の大半が経済的価値を持たなくなり、それらを伐採し、再植林することになる。
(4)森林蓄積の増加を促進するための政策と措置
森林の持つ公益的機能を根拠とした森林に対する交付金
森林の持つ公益的機能は、洪水防止、土壌流出防止、土壌の育成、川の水に混じって流れる養分の涵養などがあげられる。これらの持つ価値を評価し、国有林に限らず、すべての森林(の管理者)に対して交付金を支給する。
現在、無秩序・無計画な伐採が行われているとされている最大の原因は、木材を販売すれば収入となり、逆に木を管理し続けるとコストがかかることである。木を管理することで収益が入る仕組みを作らないと、伐採だけが収入源となり、過剰な伐採が起こりやすくなる。
*実際に林野庁の独立採算制度の下、伐採期に達した天然林の伐採が進み、たとえば高知県の魚梁瀬の森の資源は枯渇状態にある。一方で、伐採後に植林した森林は管理が不十分なため、十分な成長が期待できない。
営林署機能の拡充
現在、営林署の人員削減とともに、植林・林道整備などを一部民間に委託するなどの「改革」が検討されている。行政的な改革がどのように進められようとも、国有林管理において現在営林署が果たしている機能・役割を拡充するような施策がとられなければ、近い将来、国有林はCO2吸収源としても、森林資源としてもその価値を急速に低下させていく可能性が強い。
森林の適切な管理の実行・技術革新