はじめに |
(1) 本研究会の概要と本報告書の位置づけ
本報告書は、「地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)」内に設置された「気候変動防止戦略研究会」によるProgress Report (Phase I)の要約版である。
同研究会は、1990年に日本政府によって策定された「地球温暖化防止行動計画」が実効をあげることなく破綻し、また、政府が二酸化炭素排出削減目標の表明を回避し続けている中、日本における二酸化炭素排出削減のための戦略を研究するために、1997年4月に15名のCASAメンバーをもって結成されたものである。
同研究会の研究計画は、現在のところPhase IとIIに分けられている。Phase Iの目的は、1)利用可能な各種の二酸化炭素排出削減技術の導入促進をはかった場合、2010年までにどれくらいの二酸化炭素排出削減が可能であるかを分析・評価し、それに基づき、2)さらに適切な水準まで排出量を削減するためには、どのような政策オプションの導入が必要なのかを明らかにすることである。なおPhase IIでは、Phase Iで検討された技術導入と政策オプションが、2010年の日本経済に与えるインパクトと炭素税導入効果の分析を行う予定である。
(2) 本報告書における研究作業の概要
Phase Iにおける研究作業の流れをまとめると、次図のようである。
Phase Iでは、まず、産業部門(製造業部門)、運輸部門(自動車運輸部門)、民生家庭部門、民生業務部門、廃棄物処理部門、エネルギー転換部門(電力供給部門)の6つの部門における、2010年までに利用可能な各種の二酸化炭素排出削減技術の分析・評価が行われた。ここでの技術評価は、2010年という比較的近い将来までの技術導入を主眼としていることから、現在すでに実証段階後期あるいは商業利用段階にある技術のみを対象とした。これらの技術は、すでに、その性能・効果・導入コスト等が相当程度明らかになっており、現時点で2010年までの導入効果を評価することは十分に可能である。ただし、現在実証段階後期以前にある技術の中には、2010年までに商業利用可能となる技術もあるであろう。しかし、本研究では、現時点で2010年までに大幅な導入が確実に見込まれる技術のみを対象に分析・評価を行うという方針をとった。
次に、上記で評価した技術が、既存の施設・設備・機器等の更新の際に漸次導入された場合、どれぐらいの二酸化炭素排出削減効果をもたらすかを試算した(加速的あるいは強制的償却は想定していない)。また、この作業段階では、各種技術の導入コストの試算も適宜行われるとともに、その導入を促進するための政策と措置についても検討した。
上記の二酸化炭素排出削減技術は、生産・消費・交通・廃棄等の各種の活動に起因する二酸化炭素排出の原単位、つまり、活動量当たりの排出量を規定するものであるため、活動量が与えられなければ、二酸化炭素排出量も決定されない。したがって、次に、各種の活動水準シナリオの下で、利用可能な技術の導入促進をはかった場合の二酸化炭素排出量の試算を行った。具体的には、上記の6部門において下記のように活動シナリオをそれぞれ5つずつ設定して試算を行った。
シナリオ |
概 要 |
シナリオ0 |
各種の二酸化炭素排出削減技術がまったく導入されず、生産量・消費量・交通量・廃棄物量等(活動水準)が政府や業界等の予測通り増大するケース。(現状推移シナリオ) |
シナリオ1 |
各種の二酸化炭素排出削減技術の導入促進がはかられるが、生産量・消費量・交通量・廃棄物量等が政府や業界等の予測通り増大するケース。(技術対策シナリオ) |
シナリオ2 |
各種の二酸化炭素排出削減技術の導入促進がはかられ、かつ、生産量・消費量・交通量・廃棄物量等が1995年レベルに維持されるケース。(1995年維持ケース) |
シナリオ3 |
各種の二酸化炭素排出削減技術の導入促進がはかられ、かつ、生産量・消費量・交通量・廃棄物量等が1990年レベルに抑制されるケース。(1990年抑制ケース) |
シナリオ4 |
各種の二酸化炭素排出削減技術の導入促進がはかられ、かつ、生産量・消費量・交通量・廃棄物量等がさらに抑制されるケース。 (抑制強化ケース) |
*ただし、電力供給部門と製造業以外の産業部門では、異なるシナリオ設定を行った。
この段階では、各シナリオに対応した形で、利用可能な技術の導入促進をはかった場合の二酸化炭素排出削減効果を示した。これは、当該部門で各水準の二酸化炭素排出削減を達成するためには、各シナリオで示された水準まで生産・消費・交通・廃棄等の各種の活動を抑制する政策オプションが導入される必要があることを示していると言えよう。またここでは、活動抑制のための具体的対策メニューも提示した。
最後に、各部門における二酸化炭素排出削減効果を全体として集計するために、各部門における各シナリオでのエネルギー需要量を算出・集計し、これに各エネルギーの二酸化炭素排出原単位を乗じて、二酸化炭素排出量を求めた。ただし、電力供給部門においては、他部門からの電力需要量と供給量(ごみ発電)が与えた後に、同部門での各シナリオの下で電力の二酸化炭素排出原単位を決定し、それを用いて同部門からの排出量(配分前)を算出するという手法をとった。このようにして、各部門の各シナリオの組み合わせごとに二酸化炭素排出量を求め、利用可能な技術の導入促進と各シナリオで示された活動抑制という想定の下での二酸化炭素排出効果を導出した。
以上の研究作業の結果として、下記のようなアウトプットを得た。
利用可能な技術の導入促進と各政策オプションの下での2010年における二酸化炭素排出削減効果の推計値。(定量的アウトプット)
技術の導入促進をはかるために必要とされる政策と措置、および、各政策オプションを実行するために必要な対策のメニュー。(定性的アウトプット)
定量的アウトプットである二酸化炭素排出削減効果については、16,385通りの政策オプションの導入を検討した。そのうち、2010年において30〜35%の二酸化炭素排出削減を達成できる政策オプションは2,922通り、25〜30%は3,981通り、20〜25%は3,802通りという結果を得た。
*本報告では、特定の活動抑制目標とそれを可能にする対策メニューを選択することを「政策オプション」と呼ぶことにする。