[. 二酸化炭素排出削減のための政策オプションの検討 |
(1)政策オプションと二酸化炭素排出削減効果
第U〜Z章では、個々の部門において、利用可能な二酸化炭素排出削減技術の導入促進と各シナリオで示された活動抑制という想定の下での、各部門における二酸化炭素排出効果を検討してきた。本章では、その効果を全部門を通して集計する作業を行っている。
具体的には、まず、各部門における各シナリオでのエネルギー需要量を算出し、各部門におけるシナリオについて16,385通り(46+1)の政策オプション(組合せ)を作成した後、各オプションにおけるエネルギー需要量にエネルギー種別の二酸化炭素排出原単位を乗じて、二酸化炭素排出量を求めている。ただし、電力供給部門においては、他部門からの電力需要量と供給量(ごみ発電)が与えられた後に、各シナリオの下で電力の二酸化炭素排出原単位を決定し、それを用いて電力供給部門からの排出量(配分前)を算出するという手法をとった。そしてその後、各部門の電力需要に応じて電力供給部門の二酸化炭素排出量を各部門に配分した。
また、本報告において考察の対象としていない産業部門のうちの農林水産業、建設業、鉱業については、下記ような設定をした。
○農林水産業:
1990年水準の二酸化炭素排出量を維持する。
○建設業・鉱業:
シナリオ0: 生産量が1990年レベルより12.6%増*。 シナリオ1: 生産量が1990年レベルより12.6%増、および、
1990年比20%省エネ達成。シナリオ2: 生産量を1995年レベルに維持、および、
1990年比20%省エネ達成。シナリオ3: 生産量を1990年レベルに抑制、および、
1990年比20%省エネ達成。シナリオ4: 生産量を1990年レベルより20%削減、および、
1990年比20%省エネ達成。*通産省・総合エネルギー調査会エネルギー需給見通し
と整合性がとれるように設定した。
●全部門を通しての二酸化炭素排出削減効果と、それを達成しうる政策オプション数(シナリオの組み合わせ)をまとめると、下図のようになる。2010年において30〜35%の二酸化炭素排出削減を達成できる政策オプションは2,922、25〜30%は3,981、20〜25%は3,802という結果を得た。
●いくつかの典型的な政策オプションについて、その概要を示すと、下表の通りである。
政策オプションとCO2排出削減効果
オプションID |
特 徴 |
CO2削減効果 |
0 |
現状推移ケース(技術導入なし・活動水準抑制なし) |
+24.7% |
1 |
技術対策ケース(技術導入あり・活動水準抑制なし) |
-6.5 % |
5378 |
1995年活動水準維持・産業保護ケース |
-15.0 % |
5462 |
1995年活動水準維持ケース |
-20.3 % |
6743 |
1995年活動水準維持・強化ケース |
-24.8% |
10923 |
1990年活動水準抑制ケース |
-32.0% |
*「活動水準」とは、生産量・消費量・交通量・廃棄物量等を指す。
(2)既往の研究との比較
●本研究から導出された2010年時点での二酸化炭素排出量(排出削減可能量)と既往の研究結果との比較を下表に示す。
●本研究は、いわゆる「ボトムアップ型」のアプローチをとっている。このアプローチは、各種二酸化炭素排出削減技術を詳細に評価し、その導入効果を明示的に取り扱えるとともに、エネルギー需給のプロセスを詳細に記述できるという特徴をもっている。これと対比されるものとして、「トップダウン型」のアプローチがあるが、これは経済部門とエネルギー部門、および、経済部門間の相互作用の分析には優れているが、個々の二酸化炭素排出削減技術やエネルギー需給プロセスを詳細に取り込むのが困難で、そのため将来の二酸化炭素排出量を過大に評価する傾向がある。AIM(アジア太平洋統合モデル)による研究以外の3研究は、「トップダウン型」のアプローチによるものである。
●本研究と同じ「ボトムアップ型」のAIMとの主な相違点は、次の2点に集約できる。
本研究では、生産量・消費量・交通量・廃棄物量などの活動水準の抑制という政策オプションを組み込んでおり、その効果の分析・評価が可能である。
*AIMでは、生産量・消費量・交通量・廃棄物量などの活動水準および将来の電源構成等が、各官庁・審議会や各業界の将来予測に基づいて所与として設定されており、その条件の下で各種技術の導入がはかられた際の二酸化炭素排出削減効果が分析されている。これは、本研究におけるオプションID 1のケース、つまり、「技術対策ケース」に相当する。
本研究では、各種の二酸化炭素排出削減技術の導入促進をはかるための政策と措置、および、各種政策オプションを実施するための具体的対策についても検討されている(ただし、炭素税の導入効果についてはPhase IIでの検討課題としている)。
●本研究は、AIM(松岡・森田,1997年2月)およびAIM(環境庁,1997年4月)と極めて近い結果を示している。前者の「技術固定ケース」と後者の「標準ケース」は本研究の「現状推移ケース」と、両者の「対策ケース」は本研究の「技術対策ケース」と、定義上ほぼ同じであり、削減効果もほぼ同等である。
●本研究は、「トップダウン型」の通産省(1996年12月)および日本エネルギー経済研究所(1996年10月)とも、何も新規の対策をとらない場合の将来予測については、極めて近い結果を示している。前者の「現行施策推進ケース」と後者の「基準ケース」は、本研究の「現状推移ケース」と定義上ほぼ同じであり、二酸化炭素排出量の増大率もほぼ同等である。
●ただし、通産省(1996年12月)の「新エネ・省エネ強化ケース」および日本エネルギー経済研究所(1996年10月)「省エネ等ケース」は、本研究およびAIMによる研究結果と大きく食い違っている。これは、同研究が各種の二酸化炭素排出削減技術の効果やエネルギー需給プロセスの変化を詳細に取り込んでおらず、かつ、将来の活動水準や電源構成を各官庁・審議会や各業界の将来予測に基づいて設定しているためであると考えられる。
(3)二酸化炭素排出削減技術の導入によるエネルギーコストの削減
●二酸化炭素排出削減技術の導入のために、各部門において2010年までに必要となるコストは、総計約54.7兆円であると推計される。また、2000〜2010年の10年間にわたって均等にコストの発生が生じると仮定すると、単年の導入コストは約5.5兆円となる(なお、各部門のシナリオによって導入コストが異なる場合は、シナリオ2のケースを示した。また、各政策オプションの実施コストについては、Phase IIで試算する予定である)。
二酸化炭素排出削減技術の導入コスト
部 門 |
(億円) |
|
21,652 |
|
4,500 |
|
115,572 |
|
93,465 |
廃棄物処理部門 |
4,066 |
|
307,367 |
計 |
546,622 |
●1995年活動水準維持ケース(ID5462)の政策オプションを選択した場合、上記の二酸化炭素排出削減技術の導入による2010年時点のエネルギーコストの削減額は約19兆円(=411,440-220,547)と推計される。また、この削減額が2000〜2010年の10年間にわたって比例的に増大し、2010年に約19兆円に達すると想定すると、同期間の削減総額は約95.4兆円(=190,893×10×1/2)と推計される。(ただし、算定に用いた2010年時点の想定エネルギー価格には、税額分も含む。)
●以上から、2010年単年の純コスト削減額(エネルギーコスト削減額-技術導入コスト)は約13.5兆円、2000年〜2010年では約40.8兆円と推計される。
●AIM(松岡・森田,1997年2月)の市場選択ケースでは、投資回収年を機器寿命と同等と想定した場合、2010年時点で年間11.3兆円程度の純益(純コスト削減額)が見込まれるとされており、本研究と近い値となっている。
●最近発表されたアメリカ・エネルギー省の報告書(「アメリカの炭素削減のシナリオ」)では、アメリカにおける二酸化炭素排出量を2010年までに1990年レベルに抑制するシナリオにおいて、技術導入のためのコストが年間500〜900億ドルで、これによるエネルギーコスト削減額が年間700〜900億ドルであると報告されている。