Z. 電力供給部門 |
(1)電力供給部門からのCO2排出の状況
エネルギー転換部門からのCO2排出量の約7割は電力供給部門(電気事業者)からの排出である。CO2排出量を最終消費部門に配分しない場合(配分前)、電力供給部門からのCO2排出量は1990年度で7,800万トン、1994年で8,510万トンで、1990〜94年の4年間の伸び率は9.1%である。
電力供給部門の部門別排出シェア(配分前)は、1990年は24.4%、1995年は24.8%である。
(2)電力供給部門におけるCO2排出増大の原因
電力需要の急増:1990年〜1995年の電力需要の伸び率は、業務用電力が最も大きく31.4%、ついで電灯26.6%である。OA化、家電製品の大型化などにより、電力需要が急伸していることが発電電力量の増大をまねき、CO2排出量をもたらしている。
石炭火力発電の急増:石炭火力発電の急増が、エネルギー転換部門におけるCO2排出の急増をまねいている。石炭火力のCO2排出原単位は、LNG、石油に比べて高い。石炭火力発電量は、1990年の8,881億kwhから1995年の99,000億kwhへと、15.5%の伸びを示している。
再生可能エネルギー導入の低迷:太陽光・風力・地熱・潮力などの再生可能エネルギーの利用が依然低水準にとどまっている。
(3)電力供給部門におけるCO2排出削減の技術的可能性
●太陽光発電
太陽光発電モジュールの変換効率(発電効率)は、単結晶シリコンの場合、研究室レベルで約21%、製品で14〜16%。多結晶シリコンの場合、研究室レベルで16%。アモルファスシリコンの場合、約10%のレベルである。
太陽光電池パネルの総合変換効率(システム損失を差し引いたもの)を5%、全天日射の1ヶ月平均を120kw/m2と想定し、日本の宅地面積の20%に太陽電池を敷き詰めるとすると、年間発電量は約1,640億kwh。また、公共施設や工場などの屋根を利用すると、約1,910億kwhとなる。両者を合計すると、現在の日本の総発電量の約3分の1に相当するという試算がある(通産省電子技術総合研究所・黒川浩助氏による)。
この他に、個人住宅2,500万戸の屋根の80%に3 kw 、集合住宅45万棟の屋根50%に20kwの太陽光発電施設を設置すると仮定した場合、年間発電量は3,077億kwhになるという試算もある(大阪大学・浜川圭弘教授による)。
<環境庁による太陽光発電導入可能量の試算> (単位:100万kwh)
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住宅以外 | 住 宅 | 合 計 |
発電量 |
19,900 | 137,070 | 156,970 |
(代替発電量・電力事業発電端) |
22,214 | 153,005 | 175,219 |
*環境庁企画調整局地球環境部編『地球温暖化防止対策ハンドブック・5・エネルギー編』第一法規(p.129)
上記の2010年導入可能量の算定にあたっては、次のように想定した。
既存住宅の5割が太陽光発電設備を設置。
新設される住宅すべてに太陽光発電設備を設置。
太陽光発電設備の設置可能面積は、屋根面積の90%とする。
住宅で必要となる電力については、売電または蓄電池を充電するなどして、有効利用する。
戸建て住宅の屋根面積は、戸建て・長屋建ての平均建築面積と同等(77m2)で、2010年も不変。
共同住宅の1戸当たり屋根面積は、すべての住宅の平均延べ床面積(85.92m2)の半分を共同住宅の延べ床面積とし、さらに平均階数を3階と仮定し、14.32m2とする。
太陽電池1m2当たりの設備量は0.13kw/m2。
●風力発電
風力利用可能な年間平均風速6m/s以上の地域の総面積は、日本国土の7分の1に相当する。このうち、実現可能性の高い土地に、現在実用化されている直径30〜40メートル級の風車を設置すると、合計で発電設備量は2,500万kwになる。これにより、現在の年間発電量の20%が供給可能である。
<環境庁による風力発電導入可能量の試算>
発電設備量 | 320 万kw |
発電量 | 5,809 百万kwh |
代替発電量 | 6,484 百万kwh |
*環境庁企画調整局地球環境部編『地球温暖化防止対策ハンドブック・5・エネルギー編』第一法規(pp.131-2)
上記の2010年導入可能量の算定にあたっては、次のように想定した。
100kw級の発電機の発電電力量は、平均風速6mで約170M kw 、8mで約250Mwhであると仮定し、500 kw 、900 kw の風車で、おのおの年間850M kw 、2,250M kw の発電が可能とする。
500 kw級風車、900 kw 級風車の設置可能台数は、それぞれ5,483台、510台とする。
●高効率LNGコンバインドサイクル発電の導入
現状(1990年)のLNG火力の平均発電端発電効率は38.94%程度であるが、高効率LNGコンバインドサイクル発電(改良型コンバインドサイクル発電=ACC)では、熱効率50%の達成が可能である。この高効率LNGコンバインドサイクル発電を用いれば、従来の発電方式に比べ、燃料を大幅に節約することができる。
●既設火力発電のリパワリング
既設の火力発電設備(石炭火力・石油火力・LNG火力)にガスタービンを追設し、発電出力の増大と発電効率の向上を図ることをリパワリングという。基本的に既存の技術の組合せによるもので、蒸気タービンなどの既存設備はほとんどそのまま利用可能できる。熱効率は約5%向上する。
●最終消費部門での省エネ
電力のCO2排出原単位(電力1kwh当たりのCO2排出量)は、電力需要量に応じて変化する。電力需要が少なければ、再生可能エネルギーやCO2排出の少ないLNG火力を中心とした電源構成をとることができる。一般に、電力需要が少なければ、電力のCO2排出原単位は低下する。
(4)対策技術の導入を促進するための政策と措置
原子力発電施設の順次廃棄
原子力発電はCO2排出削減策としては考えず、再生可能エネルギーの利用拡大をめざす。さしあたって、原子力の新規立地は中止し、運転開始以来30年を経過したものについては、順次廃棄する。
政府電力計画の変更
電力事業は政府の電源開発政策に規定されている。現行の電力政策には、ESCO事業(省エネルギー支援事業)の推進等、電力需要削減計画(DSM)が含まれていない。現行の電力供給・電源開発計画を、再生可能エネルギーの利用拡大、電力需要削減計画を含めたものに変更する。
電源開発促進税の使途の変更
原子力開発を停止することにより、日本の代替エネルギー開発予算の大半を占める原子力開発予算を大幅に削減することが可能となる。その資金を活用して再生可能エネルギーの開発・普及を推進する。
再生可能エネルギー導入策の強化
太陽光発電施設の設置推進:新規に建設する公的機関・公共建築物等については、太陽光発電設備の設置を義務づける。既存の公的機関・公共建築物についても、順次、太陽光発電設備設置計画を立案する。
家庭が自宅屋根等に太陽光発電施設を設置する場合、設置コストと省エネ額との差額に相当する公的補助を行う(現行1/3補助,件数制限あり)。
再生可能エネルギーを利用した発電設備の住宅・非住宅への設置を電力会社による電源開発として位置づけ、電力会社がその設置コストを負担する制度を確立する。
風力発電施設の設置推進
(5)対策技術を最大限導入した場合に削減可能なCO2排出量
太陽光発電 |
196,893億円 |
風力発電 |
1,398億円 |
既設火力のリパワリング |
109,075億円 |
計 |
307,367億円 |
(6)対策技術を最大限導入した場合に削減可能なCO2排出量
●シナリオ設定
シナリオ0: | 2010年における各種別の発電量が1994年と変わらないケース。(現状推移シナリオ) |
シナリオ1: | 電気事業審議会中間報告(1994年6月)で想定されている2010年の発電施設能力のうち、新エネルギー・地熱・水力は最大限利用され、原子力・LNG火力・石油火力・石炭火力(発電効率は1994年比で5%向上)については、発電量が電力需要に応じて変化するケース。(通産省対策シナリオ) |
シナリオ2: |
〔太陽光発電〕住宅向け太陽光発電設備について、2010年可能発電量の4分の1(34,278百万kwh)を利用。非住宅については、可能発電量の2分の1(9,961百万kwh)を利用。 |
シナリオ3: |
〔太陽光発電〕住宅向け太陽光発電設備について、2010年可能発電量の2分の1水準(68,556百万kwh)を利用。非住宅については、可能発電量(19,922百万kwh)をすべて利用。 |
シナリオ4: |
〔太陽光発電〕住宅・非住宅用について、2010年可能発電量をすべ利用(住宅:137,111百万kwh、非住宅:19,922百万kwh)。 |
◎シナリオ2〜4に共通する設定
(1) 必要発電量を以下の発電方式で順次満たしていくと想定した。
廃棄物発電、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、原子力、新設LNG火力、既設LNG火力、既設石油火力、既設石炭火力
(2) 太陽光発電・風力発電の2010年導入可能量については先述の通り。
(3) 太陽光・風力以外の導入可能量
〔水力発電〕 電気事業審議会中間報告値(1994年6月)の水準(105,000百万kwh)を想定。 〔地 熱〕 電気事業審議会中間報告値(1994年6月)の水準(15,000百万kwh)を想定。 〔原 子 力〕 段階的廃棄プログラムにより、1,873億kwhを想定。 〔新設LNG火力〕 既設LNG火力に比して、8%の熱効率向上を想定。 〔既設LNG火力・既設石油火力・既設石炭〕 リパワリングによる5%の熱効率の向上を想定。石油火力、石炭火力の新設は想定しない。
●各シナリオにおけるCO2排出削減効果
電力部門の二酸化炭素排出原単位は、先述のように電力需要量に応じて変化する。電力需要が少なければ、二酸化炭素を排出しないエネルギーの比率が高くなる。シナリオ1〜4のCO2排出削減効果(排出原単位の変化)は下図の通りである。