U.製造業部門 |
(1)製造業部門からのCO2排出の状況
1994年度の製造業全体からのCO2排出量は1億2100万トンで、このうち、鉄鋼業、窯業土石(セメント業)、紙・パルプ業の素材産業3業種からの排出が55%を占めている(化学工業を含めると68%)。金属機械、食料品、繊維などの加工産業からのCO2排出量は、製造業全体の約30%にすぎない。
1990年以降、製造業のCO2排出量はほぼ横這いで推移している。1993年に若干減少しているのは、バブル経済崩壊による影響だと考えられる。
(2)製造業部門におけるCO2排出増大の原因
1985年の円高以降、原油・石炭などの燃料コストが大幅に下落したため、鉄鋼業などの素材産業におけるエネルギー原単位の低下が、1980年代半ばには頭打ちになった。
自動車や家電製品などで高級素材の導入が進んだことが、当該製造業のエネルギー原単位を悪化させ、エネルギー消費量を急増させた。
バブル経済崩壊後に6回実施された数兆円規模の景気対策によって、公共事業が急増した。
(3)製造業部門におけるCO2排出削減の技術的可能性
3-1 主要製造業における省エネ技術とその効果
鉄鋼業における省エネ技術とその効果 (別紙)
セメント業における省エネ技術とその効果 (別紙)
紙・パルプ業における省エネ技術とその効果 (別紙)
その他の製造業
素材産業以外の製造業では、省エネ技術が各施設・設備・機器と一体不可分となっており、省エネ技術だけを特定・分離することは困難である。しかし、1987年に実施された環境庁のアンケート調査によると、「熱管理の徹底にのみで何%のエネルギーが節約できそうか」という問いに対して、各企業の技術担当者は、食料品業で平均15.7%、繊維業で平均23.8%、非鉄金属業で平均19.7%、金属機械業で平均26.1%、その他製造業で平均25.7%、全製造業で平均21.4%と回答している。ここでは、鉄鋼業、セメント業、紙・パルプ業以外の製造業については、20%程度の省エネが可能だと想定した。
3-2 リサイクルの推進
鉄鋼業:転炉鋼比の低下
●転炉鋼比の低下によるエネルギー原単位の削減
年 |
転炉鋼比 |
エネルギー |
削減率 |
1990年 |
68.6% |
− |
− |
2010年 |
65.0% |
108.9 Mcal/t |
2.3% |
同 |
60.0% |
260.1 Mcal/t |
5.5% |
セメント業:高炉セメントのシェアの増大
●高炉セメントのシェア増大によるエネルギー原単位の削減
年 |
高炉セメントの |
エネルギー |
削減量 |
1990年 |
16.6% |
823 Mcal/t |
− |
2010年 |
35.0% |
740 Mcal/t |
83 Mcal/t |
同 |
55.0% |
689 Mcal/t |
134 Mcal/t |
紙・パルプ業:古紙利用の拡大
●古紙の利用によるエネルギー原単位の削減
古紙利用率 |
60% |
65% |
エネルギー原単位の削減量 |
123.3 Mcal/t |
195.8 Mcal/t |
3-3 排エネルギーの回収利用
鉄鋼業:廃プラスチックの高炉燃料化
●排プラスチック利用量120万トンの場合
鉄鋼業全体から見た省エネルギー率 |
1.7% (1990年比) |
粗鋼トン当たりの省エネルギー量 |
76.1 Mcal/t(1990年比) |
鉄鋼業の排エネルギーの回収・利用
(4)技術の導入コストに関する試算
●技術導入コストに関する試算(シナリオ2)
業 種 |
コスト (億円) |
2010年の生産量 (万トン) |
|
3,965 | 粗鋼 10,002 |
|
11,290 | ポルトランドクリンカ 8,400 |
紙・パルプ業 |
6,396 | 紙・板紙 2,906 |
3業種の合計 |
21,652 |
(5)対策技術の導入を促進するための政策と措置
省エネ法の強化
現行の省エネ法の下では努力目標となっている「エネルギー原単位改善目標」の遵守を義務化し、目標を達成できなかった場合は、罰金や操業停止などの処分を課すようにする。
省エネルギー設備への補助金
現行の「省エネ・リサイクル支援法」による省エネ投資に対する超低利融資、減税(現行7%)、初年度特別償却(同30%)、税額控除(同6%)を拡充するのとともに、適用業種・機器を拡大する。
リサイクル推進の支援策
鉄鋼業:電炉メーカーへの鉄スクラップ供給を確保する措置をとる。
セメント業:公共事業における高炉セメント使用の奨励等によって、需要先を確保する措置をとる。
紙・パルプ業:古紙集団回収への奨励金、機密文書処理機関の設立、「リサイクル56計画」の完全実施などによって、古紙回収に経済的なインセンティブを与える。
(6)対策技術の導入促進をはかった場合に削減可能なCO2排出量
●シナリオの設定
シナリオ0: | 各種省エネ技術の新規導入が行われず、かつ、生産量が業界等の見通し通りとなるケース。(現状推移シナリオ) |
シナリオ1: | 「普及の徹底を図る技術」の導入促進を行い、かつ、生産量が業界等の見通し通りとなるケース。(技術対策シナリオ) |
シナリオ2: | 「普及の徹底を図る技術」の導入を行い、かつ、各業種の生産量が1995年実績に留まるケース。(生産量1995年維持シナリオ) |
シナリオ3: | 「普及の徹底を図る技術」の導入を行い、かつ、各業種の生産量が1990年実績に留まるケース。(生産量1990年抑制シナリオ) |
*ただし、鉄鋼業の場合は、日本興業銀行による生産量予測の「2000年なりゆきケース」と同等と想定。また、セメント業については、通産省生活産業局による生産量予測の下限値を想定。 | |
シナリオ4: | 「普及の促進を図る技術」の導入を行い、かつ、各業種の生産量が1990年実績より15%〜34%下回るケース。 (産業構造改革シナリオ) |
●各シナリオにおけるCO2排出削減量の試算(2010年) (単位:万t)
1990年 |
シナリオ0 |
シナリオ1 |
シナリオ2 |
シナリオ3 |
シナリオ4 | |
鉄鋼 |
4,757 |
4,001 |
3,534 |
3,761 |
3,387 |
2,558 |
エネルギー消費 |
4,590 |
3,860 |
3,401 |
3,619 |
3,259 |
2.461 |
石灰石消費 |
167 |
140 |
134 |
142 |
128 |
97 |
セメント |
2,289 |
2,548 |
2,264 |
2,186 |
1,883 |
1,438 |
エネルギー消費 |
1,190 |
1,344 |
1,087 |
1,049 |
904 |
621 |
石灰石消費 |
1,099 |
1,205 |
1,177 |
1,137 |
979 |
817 |
紙・パルプ |
1,020 |
1,465 |
1,183 |
870 |
824 |
511 |
その他 |
5,604 |
6,310 |
5,092 |
4,839 |
4,522 |
3,618 |
エネルギー消費 |
5,410 |
6,092 |
4,873 |
4,631 |
4,328 |
3,462 |
合計 |
13,670 |
14,323 |
12,074 |
11,656 |
10,617 |
8,125 |
エネルギー消費 |
12,210 |
12,760 |
10,545 |
10,170 |
9,315 |
7,056 |
石灰石消費 |
1,460 |
1,563 |
1,529 |
1487 |
1,301 |
1,069 |
1990年=100 |
(100.0) |
(104.8) |
(88.3) |
(85.3) |
(77.7) |
(59.4) |
(7)エネルギー効率の高い産業構造を目指して
産業構造の転換
鉄鋼業・セメント業・紙パルプ業・化学工業等のエネルギー多消費型素材型産業の生産量を内需に見合うレベルまで抑制するとともに、エネルギー効率のよい産業(農林水産業も含む)の政策的育成をはかる。
「公共投資基本計画」の見直し
必要性・効率性・環境へのインパクトの観点から、既存の公共事業計画を総点検する。
環境アセスメントの評価項目に、建設・運用時におけるCO2排出量を明記する。
公共事業の計画・実施段階における情報公開と住民参加の保証・拡充。
リサイクル製品購入における官公庁の率先行動と啓蒙普及
環境管理の徹底
ISO14000シリーズの取得義務化。
*全ての業種・企業において、自発的にエネルギー消費量削減とCO2排出削減に関する数値目標を明記した「環境自主行動計画」を制定する。