気候変動枠組条約・第3回締約国会議(COP3)の意義と課題」

 


泉 邦彦
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)代表理事
 

 

 大気中の二酸化炭素(CO2)およびその他の温室効果ガスの濃度は、近年着実に増大しつづけている。CO2の増加の主要な原因は化石燃料の燃焼である。そして現状のまま推移すると、すべての温室効果ガスのCO2相当濃度が、2025年-50年に産業革命以前とくらべて倍加し、そのときの地球の平均気温が2?3℃上昇すると予測されている。これが地球温暖化問題である。

 この気温上昇は、地球環境にさまざまの重大な影響をおよぼす。まず、海面水位が30?50cm上昇し、多くの国、とくに島しょ国の沿岸地域で陸地が大幅に水没する。また降水量が一般に増加し、洪水が多発すると共に、北半球の大陸内部では夏期に土地が乾燥し、干ばつが激化するおそれがある。とくに北米や南欧の穀倉地帯の乾燥は、農業生産を3割近く減少させて世界に食料危機をもたらす可能性が高い。さらに気候帯が極方向へ数百km移動するので、それに適応できない多くの生物種が絶滅し、生態系の破壊が各地で広範に進行するとみられる。

 一方、地球の平均気温は過去100年の間にすでに約0.5℃上昇したことが確かめられている。しかもこの気温上昇は、その度合いが温室効果ガスの大気中濃度の増大から予想されるものとほぼ一致しており、このことによって生みだされた可能性がきわめて高いといえる。またこのような温室化の具体的な現れは、氷河の後退、海面水位の上昇、海洋の水温上昇に由来するサンゴ礁の退色・死滅などによっても裏づけられている。さらに、1990年代に入って世界各地に頻発する台風とサイクロン、大洪水、激しい干ばつと山火事なども、ピッチを速めつつある温暖化の無視できない兆候であろう。

 このように、地球温暖化問題は、今や科学的な知見が集約されて、事態の緊急性に関する世界共通の認識が得られているが、必要な対策は、国際的には残念ながらまだほとんど手つかずの状況に置かれている。とくに、1992年に締結でれた気候変動枠組み条約では、先進工業国について、CO2の排出量を90年代の末までに以前(多分1990年)のレベルに戻すことが単に努力目標として定められたにすぎない。このようなあいまいで拘束力のない取り決めでは、実行性はまったく期待できない。

 

 地球温暖化を防止するにはCO2の大気中濃度を安定化させること(これ以上増大させないこと)がなによりも必要である。IPCC報告(1990年)は、このためには化石燃料などに由来するCO2の排出を60%以上削減しなければならないと指摘している。しかし、これをすぐに全面的に実施することはむずかしいので、とりあえず先進工業国が2005年までにこの排出量を1990年レベルからすくなくとも20%削減することが、実施可能な目標として世界の多くのNGOによって提唱されている。

 また1994年には、同様の目標を含む議定書案が、政府レベルでも小島しょ国連合(AOSIS)によって国連に提出されたが、95年の上記条約第回締約国会議(COP1)では、この案は残念ながら締結されるにはいたらなかった。しかし、COP1では、温暖化防止を願う多くの人々の声を反映して、97年のCOP3(日本で開催予定)で議定書を締結するこを確約したマンデートが定められた。したがって、COP3こそはまさに正念場であり、この会議でAOSIS案を骨子とする議定書を締約する課題は、人類が21世紀へ向けて、地球温暖化問題を克服するための重要な一歩を踏み出すことができるかどうかの試金石とみなされるだろう。