「東アジアにおける酸性雨など越境大気汚染と地域におけるNGOの取り組み」

 


キム・サン?テウ
テジョン大学環境工学部助教授
 

 

近年、酸性雨をはじめとする越境大気汚染は、東アジアできわめて重要な問題になっている。この問題解明のため、流跡線解析や全国規模での観測、気体やエアロゾルの成分測定、航空機を使った観測など、多くの調査・研究も行われ、その結果、主な汚染物質や降水の酸性度について、その地理的分布や時間的な変動の概要が明らかになっている。

 しかし、酸性雨など越境大気汚染問題では、沈降率(湿性、乾性)、反応率、時間的・空間的分解能、あるいは排出量目録などのデータ分析において、誤りが多く不確実性も高い。これは、政策立案の担当者や汚染問題を憂慮する市民にすれば、深刻な事態を招きかねないことである。

 今回の報告では、こうした問題に関する事例をいくつか取り上げ、過大な評価や不確実性についての指摘を行いたい。もちろん、越境大気汚染という事実を否定しようとするのではなく、大気環境改善の取り組みにおけるNGOの真の役割が何かを探ることが報告の目的である。

 また、天谷式カプセルを使ったサンプル採取といった手段による韓国でのNO2(二酸化窒素)広域同時測定の結果についても報告したい。NO2は自動車時代を代表する大気汚染物質であり、また光化学オキシダントや酸性雨の前駆物質でもある。韓国では、市民ボランティアの参加を得て、93年から6ヵ月ごとに、これまで6回の全国測定が行われている。毎回、二千件から一万件の観測データが集められており、全国の汚染状況を分析し大気汚染地図を作ることもできるようになった。

 次に、AANEA(東アジア大気行動ネットワーク)の越境大気汚染に対する取り組みの一つとして、東アジア全域をおおう酸性雨観測計画の実施を提案したい(同時にあるいはその代わりとして、二酸化窒素や二酸化硫黄の濃度測定を行ってもよい)。このような取り組みにより、大気汚染の地理的分布が分析可能となり、越境大気汚染が持つ不確実性を克服することもできるようになるだろう。

 近年、生活の質を左右する環境問題の重要性が強調されるようになった。最重要視されていると言ってもよい。このような風潮のなかで、越境環境問題への関心が地域固有の大気汚染や人間の健康に関するリスク・アセスメントといった事柄を見落としがちになるのではないかという、いささかの危惧を私は持っている。「地球規模で考え、地域で行動する」というNGO運動のスローガンをもう一度思い出すべきときが来ているのである。