中央環境審議会企画政策部会事務局宛提出分

今後の環境アセスメント制度のあり方についての意見

1996年9月10日
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)

1 環境アセスメントの法制化について

環境影響評価制度総合研究会の報告書にも記載されているように、OECD諸国で、環境 アセスメントを法制化していない国は、日本だけとなっており、OECD諸国以外の途上国 でも環境アセスメントの法制化が進んでおり、環境アセスメントに関しては、日本は完全に 遅れた国となっている。環境アセスメントの法制化は今や必然であり、早急に環境アセスメ ントの法制化がなされるべきである。

環境基本法の第20条に環境影響評価の推進に規定がおかれ、この環境基本法に基づいて策 定された環境基本計画においても、第4章第1節で環境影響評価の推進がうたわれており、 環境アセスメントを法制化することは、こうした環境基本法や環境基本法にもとづく、義務 ともいうべきである。

産業界などの一部に、現在の要綱アセスメントで十分との声があるようであるが、これま での要綱アセスメントが極めて不十分なものであったことは、各地のヒアリングでのNGO や市民からの意見で明らかである。

環境アセスメントの法制化は当然として、どのような環境アセスメントをつくるかが議論 されるべきである。

2 早期段階での環境配慮と環境影響評価の実施時期はどうあるべきか

1992年の地球サミットで採択された「リオ宣言」は、「永続可能な発展」を理念とし、そ のための手段として「環境と開発(発展)の統合」を掲げた。同時に採択された「アジエン ダ21」も、政府が、(1)経済・環境に関する政策、戦略計画の国家的再検討し、(2)環境と開発 の統合化のための組織構造を強化し、(3)あらゆる意思決定段階での参加システムを容易化し 、(4)以上のための国内的手段の確率すること等を目標として掲げた。そして、「経済、社会 、環境間における意思決定の影響を事前に、かつ、同時に評価し得る総合的な分析手続を採 用し、政策、プログラムレベルにまでそれを適用すべきである」と述べている。これは政策 レベルでの「総合アセスメント」の採用を意味している。

リオ宣言の理念を受けて制定されたわが国の環境基本法の19条も、「国は、環境に影響を 及ぼすと認められる施策を策定し、及び実施するに当たっては、環境の保全について配慮し なければならない」とし、ややトーンダウンしている環境配慮義務を規定する。そして同法 36条により地方公共団体にも、これに準じた施策を実施するものとした。ただ、同法20条の 環境影響評価の推進では、「事業実施アセスメント」にしか言及していない。

しかし、環境と開発の統合を図るには、アジエンダ21が述べるように、国と関連機関、国 の政策及び上位計画レベルでの総合アセスメントが不可欠である。

米国では、1970年の国家環境政策法(NEPA)により、早くから連邦政府の環境に影響 を及ぼす政策についても、環境アセスメントが要求されたきた。

わが国でも、行政計画レベルでの計画環境アセスメントの必要性は、1979年の中央公害対 策審議会の答申でも述べられていた。環境庁では、1978年度から数年間にわたり計画アセス メントについての委託調査研究事業が行われ、その報告書も出された。当時としては事業ア セスメントですら経済界や事業官庁の攻撃の対象とされていたので、それは日の目をみると ころとならなかった。しかし、先進国で環境アセスメント法を持たない国は日本だけとなり 、地球環境時代に入って、再び法制化が検討されるところとなった。

他方、条例や要綱に基づいた地方公共団体における事業アセスメント(実態は事前調査) がその限界にきて、政策段階のアセスメントを採用する傾向が出始めていることを認識すべ きである。

3 対象事業はどうあるべきか

対象となる政策の選別(スクリーニング)

環境に相当な影響を与える政策がアセスメントの対象となる。それは、対外的に表示さ れる総合計画や地域整備構想だけではなく、内部的な起債・補助金の申請行為についても 、それが環境に影響を及ぼす事業に関係するものであれは対象とする必要がある。また直 接に政策と関係なくとも、国の政策計画で地方の要望を聞いて積み上げる計画については 、その要望の内容も対象とすべきである。例えば、長期・中期の水資源開発、森林伐採、 林道開発、土地改良事業、道路、住宅、下水道等の整備見込についても対象とすべきであ ろう。

例えば、空港整備五ケ年計画への組み入れの前に空港設置政策の環境アセスメントをし ておく必要がある。そうでないと、整備事業計画に組み入れられ、調査費がついた段階で 計画アセスメントをやっても、単なるアワスメントに終わってしまう。

起債の許可、補助金の交付決定、予算の成立後のアセスメントではフィードバックがき かない。その以前に政策アセスメントを行うべきである。

次に、すでに決定ずみの総合計画や都市計画についても見直しのアセスメントが必要で ある。計画決定後に国際的、国内的な環境政策に変化があった場合には、その変化に適合 するようにアセスメントを行い、政策や計画の変更、修正を行うべきである。

4 評価対象はどうあるべきかー事前手続(スコーピングとティアリング)

政策・計画・事業の各レベルに於けるアセスメントではその着手前に、評価する環境の範 囲、代替案の類型、調査の範囲・期間・項目・評価手法、協議先等について、政策担当部局 又は事業者、関係住民、第三者的審査機関がある場合はそれと、協議する手続を設定すべき である。また、政策、計画、事業と一連の手続で進行していく場合の各段階でのアセスメン トが分担する分野を、段階的に分担分けする必要がある。NEPA規則では、前者をスコー ピング、後者をティアリングと呼んでいる。 スコーピングのメリットとしては次のような点があげられる。 また、スコーピングのデメリットとしては、次のことがあげられる。 また、スコーピングを行うには、予備調査としての地域環境特性の把握を前提とし、それ に基づき検討する必要がある。

スコーピングの策定資料については次の資料があれば、容易にこれをなし得る。

  1. 環境基本計画
  2. 地域環境管理計画(環境指標)
  3. 土地利用適性評価図・マトリックス
  4. 自然環境保全基礎調査
  5. その他の行政・民間調査(希少種の分布調査等)
  6. スコーピングのための補充調査
例えば、jをみれば、災害可能性条件や自然生態系適応条件が視覚化されているので、ど の地域でどのような開発が可能か不可能かの概要が判定できる。iのとの関係では、マクロ 的に計画対象活動の許容範囲が判定できる。 その上で、その政策が一応の可能性が認められたときは、klmによるより具体的な調査 に入り、代替案を検討することができる。

「スコーピング」は、このように、政策アセスメントの事前調整会議としての役割を果た す。そのために、後になってアセスメントの欠陥を指摘されることを減少するのに役立つ。 あるべき事前手続に最小限盛り込むべき手続事項を列挙すると、以下のとおりとなる。

  1. 公開すべき事項
  2. 公開の時期と期間
  3. 住民参加の方法、時期
さらに、「事前手続」の制度化において、審査会、審査委員が専門家としての立場から、 前記a項の事項について意見を述べうる機会を保障すべきである。ただし、その意見は事業 者を拘束するものではなく、これを選択するか否かは事業者の責任で決定すべき旨を明示し ておくこととする。

5 評価はどのように実施すべきか

事前評価対象行為の把握と分析

事前評価を行うためには、対象となる行為の内容、性質と環境に及ぼす作用をまず的確 に把握、分析して、評価のための実態調査の範囲、項目の決定の基礎を確立する必要があ る。そこで次のような点を明らかにすべきであろう。

A.計画された行為の内容、影響範囲と作用の種類、強度。

  1. 一連の計画、手続の一環たる行為か否か、そのいかなる段階における行為か、その前提および後続手続・活動の性質、計画の熟度。
  2. 一回限りの行為か、反復する行為か継続する行為か、行為の効果の時間的範囲、重複的、累積的効果。
  3. 複合計画の一部か、それ自体完成する一つの行為か。例えば、計画対象地の付近に別に同種または異種の計画があるか。あるいはすでに実施されたものがあるか、これらは、複合的影響を評価する際の資料となる。
  4. すでに同種のまたは類似の計画が実施されている場合はその行為の性質、内容とそれが及ぼす影響作用。
  5. 計画された行為の社会的・文化的・国民生活上の意義についての立案者、利害関係人、学識経験者等からの事情聴取。
  6. 計画された行為を実施するために使われる建設技術等の性質と影響範囲。
  7. 計画された行為の完了後、操業、管理に付随して行われる諸種の行為、たとえばその施設に出入りする車両の頻度などおよびそれによる影響。

B.環境の現況の把握

これは事前評価の前提となる最も重要な作業である。実態調査なくして評価はありえな い。現在わが国のアセスメントの欠陥は、これを欠くか、または著しく不十分なことであ る。したがって、事前評価立法には、ある程度具体的に調査を義務づける規定を置くべき である。

実態調査による現況の把握をシステム的に考えると次のようになるであろう。

  1. 事前評価の空間的範囲=実態調査の範囲の決定、評価の対象となる行為の性質の把握からその影響が及ぶと予想される空間的範囲を決定する。住民や利害関係人に対象行為の分析結果を開示し、調査範囲について意見を開くことが必要である。

  2. (第一次的影響範囲のみならず、数次的影響範囲も決定する。)
  3. 計画された行為の実施によって影響を受ける環境要因が、回復、復元、補修の可能なものであるか否か。可能であるとすれば、その対策方法。
  4. 不可避的に生ずる影響の強さと重要度。これには数字で表示する方式と記述式があるが、記述式の方が良いと考えられる。
  5. 影響を軽減、回復、復元、補修可能な場合、その費用、時間、効果。
  6. その計画された行為の実施によって長期にわたって累積する影響の評価。偶発的事故によって生じる不可逆的な影響。

C.代替案の検討

計画された行為に代わる代替案、計画された行為から生ずる影響の分析の結果、マイナ スの影響をさけるための代替案等が検討されなければならない。

代替案は、計画された行為の良さを確証するための「おすみつき」とするために作られて はならない。それには次のような点が検討されるべきである。

  1. 計画された行為の目的とする効果を達成するための代替手段の検討。
  2. 立地についての代替手段その他規模、外観、設備等についての代替手段。
  3. 環境に与える影響を全部または一部さけるための代替案、たとえば、建設段階における騒音をさけるための技術的代替案。
  4. 代替案の改良、発展、再構成の検討。

D.環境保全水準

環境事前評価に関して、環境保全水準を定めて行う方法とこれを定めない方法とがある。いずれにも利点と欠点がある。水準の定め方が問題であるし、水準が汚染許容水準となるおそれもある。

現状では、一応の保全水準を考え、その有する利点と欠点とを十分認識した上で、地域 の特質に即応して、これを流動的に使用するのが望ましいであろう。

環境保全水準について、次に問題点のみを指摘する。

  1. 保全水準は上の項目のみならず、環境資源の保全、歴史的、文化的環境、社会的環境についても定められるべきである。
  2. 保全水準は環境基準値では不十分である。それは40歳以上の成年の者を基準としているし、病人、老人、幼児等には適さない。環境基準は現在の知見の水準で定められているにすぎず、暫定的なものであり、項目も限定されており、複合汚染基準は存しないからである。
  3. 保全水準は既汚染地域と未汚染地域とでは異なり、その用い方も変えるべきである。その地域の特質に応じて考慮さるべきである。
  4. 計画された行為の性質に応じて同一地域でも、対象行為、その作用因子によって実状に応じて異なった水準が用いられるべきである。
  5. たとえば地域総量規制のための地域の平均保全水準と、個別のプロジェクトのその地域における設置の場合の評価の保全水準とは別のものとなる。後者はその施設の排出形態、地点の特質に相応して定められるべきものである。
  6. 保全水準を定めた場合、それを絶対値とせず、その有する危険性、マイナス面を十分認識したうえ使用すること。分析評価の過程で、それを厳しく修正する必要が明らかになったときは修正水準を用いること。

E.安全率の確保

現在における環境影響評価に関する科学的、技術的水準の未解明を考えると、事前評価 に関しては十分な安全率がとられねばならない。それはその要素に応じてその大きさが考 慮されなければならない。

6 住民の関与はどうあるべきか

公開の原則

環境影響事前評価法は前述のように、環境に影響を及ぼす行政活動について、事前の適 性手続を定める立法である。英米の伝統を受け継ぐ適正手続の原則の一部は、わが国の若 干の行政立法にも、事前の意見の陳述、公聴会の開催という規定等が個別的に採用されて いる。

この原則の要素の一つに「告知」というのがある。環境事前評価は国民や地域住民の利 益のために設けられている手続であるから、それらに不利益を与えるか否かの事前検討の 結果は国民や住民に広く公開する必要がある。これは告知の一種であると考えられる。

米国の国家環境政策法102条C項は、環境影響評価報告書は、「米国法典第5章第5 2条に規定されているところにより、公衆の利用に供され、既存の政府機関による再審査 手続を通じて、当該提案に添付されなければならない。」と規定している。

この告知によって知りえたすべての事実と評価の内容がそのまま国民、議会に提供され 、公聴会や討議会での基礎となる情報を与えることによって、計画決定への幅広い住民の 参加を可能にする。資料の全面的な公開によって、地域の狭い利害関係を抑制し、住民の 意思を狭く解釈することを防止する作用を果たすことになる。

このような公開の原則は次の点を包含すべきである。

  1. 事前評価手続の過程で得られた全資料をその各段階において公開する。
  2. 事前評価に対する他の諸機関、公共団体、利害関係人、住民等の意見の概要は最終報告書に記載する。
  3. 形式的公開ではなく、実質的公開とする。誰でも、何時でも、容易に、分かりやすく知りうるように公開する必要がある。そのためには、膨大な報告書の索引月刊誌、モニター紙が市販され、各地域に常設の資料センターが設置され、専門家の説明が聞けるような措置が考えられるべきである。開発行為については、計画予定地に、計画の概要、資料の公開場所を表示する必要がある。
  4. 企業秘密の理由で公開の原則が制約されないようにすること。そのためには、公開されたノウハウに対する保護措置などが講ぜられる必要がある。

住民参加手続の確保

計画された行為は、地域住民の利害に対して種々様々の関係を生じさせる。たとえば、 新幹線は、その付近の住民に対して騒音、振動の不利益をもたらすが、他方それ以外の利 用者に対しては利便をもたらす。この場合、不利益を受ける住民の数が少数だからといっ て、その意思を無視することはできない。それらの人の意見を聞き、それを尊重して、利 害の調整を図る必要がある。

また一方、住民の体験する貴重な情報や専門的意見を吸収してこれを生かすことも必要 欠くべからざることである。

このように、住民が事前評価の手続に参加することは適性手続の法理の一要素でもあり 、民主主義の理念にそうものである。元来、住民こそが日々の生活の中で自然と健康の破 壊を身を持って感じ、それゆえにこそ快適な環境を享受する権利を誰よりも強く主張せざ るを得ない立場におかれているのである。

住民参加の主体

これは、計画された行為に関係する地域の住民、関係市町村の住民、環境保全について利害関係を有する団体、個人、専門家、エコロジスト等である。専門家などを含めたのは、専門家の意見を出すことによって、住民の環境問題に関する認識と自覚を実質的に高めようとするためである。
  1. 参加の段階

  2. 現状把握段階における、調査地域の範囲、調査の基礎情報の収集、地域の実態聴取に関して意見を聞く。
  3. 参加の方法

  4. 住民等の意見の陳述、申出、意見書の提出、事前の異議の申出、措置請求、公聴会、審議会での意見陳述等々事案に即してなされるべきである。事前評価法には、これらを認知する規定がおかれるべきである。
  5. 参加の結果の処理

  6. 意見等については、その概要を記載し、採用しなかったときはその理由をつげるのが望ましい。異議の申出に対しては応答しなければならない。これは行政不服審査法の規定によることとなる。住民の意見を相当と考えた時は、それに応じて見直し調査、評価をしなければならない。

住民の専門家依頼権の確立

利害関係を有する住民は、その指定する専門家を公費によって依頼する権利を確立 する必要がある。これによって住民と開発主体、行政機関との接渉は、その争点が整 理され、合理的、能率的に進められることができる。

これら住民によって指定された専門家が公的な調査研究施設、コンピューター等を 利用し、かつ資料を請求する権利が認められなければならない。

7 評価の審査はどうあるかー影響評価審査機関について

事前評価が適性に行われ、それに基づいた対応策と実施措置を確保するためには、その審 査機関が必要である。米国では、環境保護庁(EPA)が審査し意見を提出したステートメ ントのリストを連邦公報に掲載している。しかし、連邦機関の活動を中止させる権限はもた ない。ただ、他の諸機関や、環境審議会(CEQ)、および大統領に助言することのみを行 う。

わが国でも、環境庁にかかる権限を認めるか、総理大臣の所轄として環境保全委員会を設 け、公正取引委員会のような独立性を与えて、再評価命令、措置、停止命令権を認めるか、 もしくは内閣に対する勧告、意見等の権限を認めるべきである。これらの権限の行使は公表 されなければならない。地方公共団体の行為については、地方環境保全委員会を設けるべき であろう。

審査事項としては、次のような点が考えられる。

  1. 影響評価手続が、先に述べたような要件に基づいて適正になされたか。
  2. 計画された行為、提案が評価の結果十分な対応策が確保されたか、さらに再検討すべき点があるか。
  3. 計画が実施されて良いか、一時停止すべきか、見直し再評価が必要か。

8 許認可等へはどのよう反映させていくべきか

旧法案にあったような「横断条項」をEI法に規定すべきである。 NEPAのように、EIA終了後において主務官庁が当該条項に基づいた意思決定をし、 それをその理由と共に公開すべき規定をおくべきである。

9 評価後の手続はどうあるべきか

実効性の確保

影響評価に違反した場合、その違反が違法行為を構成して、差止原因となるとされるべ きである。

また、手続のやり直しの規定を設けるべきである。影響評価書の公告、縦覧の結果、再 度の評価手続を求める制度を設け、その最終手続が終わるまで、事業決定を保留させるべ きである。

事後監視制度

事業実施において、なお評価の前提条件が守られているか、評価の条件に変更がなかっ たか等について、監視、追跡調査が必要であり、変化に応じた事後評価、操業の中止等を 求める手続が必要である。

事後監視の結果、予測と違っていたり、環境をめぐる条件の変更があったりした場合は 、当初の計画や事業を見直して、それを修正・反抗・廃止などの措置をとるようにすべき である。

10 国と地方の関係はどうあるべきか

国のEI法とEIA条例の関係について

条例で横出し、上乗せの条例を設けることを認めるべきである。地方自治体の主体 性と自主性を尊重し、地域の実情に応じたEIAを可能ならしめること

国、公団等の公共事業のEIAも地方の条例を優先して適用すべきである。

11 環境影響評価を支える基盤はどのように整備すべきか

環境アセスマントの保護法益…どのような環境を守るために行うか

生態系のバランスと環境資源
これは人間の存立基盤となるものであって、わが国 には全体としてこれを保護する法律はない。部分的には自然環境保全法や森林法等があ るが、発想が異なっている。アメリカでは国家環境政策法(NEPA)がこれを保存す ることを目的としており、この法律にもとづいて環境アセスメントはなされるから、生 態系のバランスや環境資源に対する影響評価が義務づけられることになる。これに対し てわが国でおこなれ、また立法化されようとしているアセスメントはこれを保護する観 点を欠いていることが一番大きな問題となる。
人の健康と生活環境
公害規制法や食品衛生法などの行政法規で、ある程度まで保 護しようとしているが、その程度、手段、規制段階、範囲、態様等が不十分である。
社会的、歴史的、文化的環境
文化財保護法、古都保存法など若干の保護法がある が、ロと同様不十分である。NEPAではこれらの環境についてもアセスメントを義務 づけている。

誰のためのアセスメントか

現在および将来の人間と、その存立基盤である自然の生態系のために行われるべきもの である。非常に広い視野に立てば、単にその国の経済成長や政治を考えておこなうべきも のではない。このことから、アセスメントへの一般人の参加と監視とが必要である。これ を法律的な権利という側面からみると、環境権とか自然自身の権利としての自然権という 形であらわれる。

評価の手法

評価方法はアセスメントの対象によって異なることになる。例えば、土地利用に関係あ る行為のアセスメントに関して述べると、次のような方法がとられるべきである。
実態調査にもとづく環境管理計画の定立
生態系、人間の健康、社会、文化、歴 史の、過去から現在に至る環境の変化について実態調査をおこない、それにもとづい て地域環境管理計画を策定する。次に、これに適合する範囲内での各種の代替案を検 討し、それぞれについて予測と評価をおこない、適性な土地利用の場所を選び、その 立地場所での環境影響評価をおこなうべきである。
評価段階とフィードバック
土地利用に関係ある事業は、地域計画や土地利用計 画などの上位計画にもとづいて、あるいは規制されておこなわれるものが多い。この ようなものについては、上位計画の段階からアセスメントがおこなわれ、下位計画、 事業計画の各段階でもアセスメントし、それぞれの評価にもとづき、上位計画の修正 という形でのフイードバックがされるべきである。

国際的環境アセスメントの必要性

自国の環境のみならず、国際的影響を及ぼすものについてのアセスメントの必要なこと は、環境そのものに国境がないことから明らかである。

政策アセスメントと土地利用適性評価

土地利用に関係ある政策のアセスメントについて、代替案の工夫、検討、スコーピング を行う場合には、土地利用適性評価システムを利用することが不可欠であると考えられる 。問題は自治体のどの部局がこのシステムを担当するかである。府県レベルの企画部がこ れをつくるのが一番適当であると思われる。環境部が担当することも考えられるが、他の 部局で活用されるとは限らない。この評価システムには、自然環境だけでなく、森林、鉱 物、水等の資源や歴史・文化環境特性も含めると環境部以外のデータもインプットする必 要があるからである。

例えば、環境管理計画の基礎調査情報図を作成している自治体には、福島、茨城、埼玉 、千葉、見え、和歌山、熊本等の各県がある。土地利用適性調査として作成したところは 、静岡県、愛知県があり、山口県は環境利用ガイド地図集、香川県が環境資源図を作成し ている。市レベルでも、大宮、市川、大野の各市がエコマップ、横浜、岡谷市が地域環境 特性図、新潟、柏市が環境情報図、岡山市、熊本市が環境特性図を作成している。

静岡県は企画部で作成し、県域を流域別に83地域を横軸に、自然環境、災害可能性、 都市的整備の環境条件35項目を建て軸とするマトリックスを造り、それぞれについてA BCJのランクに分けた適性評価を行っている。これはコンピュータに組み込まれ、各地 域毎の評価図を画面に検出し、政策評価ができるようになっている。アメリカでは従前か ら行われてきた手法であるが、日本の自治体でもやっとおこなわれるようになってきた。

マトリックスは、県土の各情報の相互関係や2つ以上の情報を総合的に判断できる。ま た、地区の土地利用の改変、転換が環境にどよのうな影響を与えるかを示してくれるし、 市町村の土地利用についても、展開が可能になるように改革されている。

環境評価制度の法制化については、このような経験が参考にされるべきである。 


 
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)