大気中の二酸化炭素(CO2)およびその他の温室効果ガスの濃度は、近年着実に増大しつづけている。このまま推移すると、すべての温室効果ガスの二酸化炭素相当濃度は、2025−50年に産業革命以前とくらべて倍加し、そのときの地球の平均気温は約2℃(1.3−2.7℃)上昇すると予測されている。
しかもこの上昇温度は、海洋の影響による昇温の遅れを考慮に入れたものであり、この時点でかりに温室効果ガスの濃度の増大に歯止めをかけたとしても、それ以後も平衡温度(のべ1.5−4.5℃の上昇)へ向けて、すこしずつではあるが、なお昇温が進むことが無視されてはならない。
一方、地球の平均気温は過去 100年の間にすでに0.3−0.6℃上昇したことが確かめられている。この気温上昇は、その度合いが温室効果ガスの大気中濃度の増大から予測されるものとほぼ一致しており、そのことによって生みだされた可能性がきわめて高いとみられている。
平均気温の2−3℃の上昇は、地球環境にさまざまの重大な影響をおよぼすであろう。まず海面水位が2050年までに30−50cm上昇すると予測されているが、これは多くの国、とくに島しょ国の沿岸地域で陸地を大幅に水没させる。また降水量が一般に増加し、洪水が多発すると共に、北半球の大陸内部では夏期に土地が乾燥し、干ばつが激化するおそれがある。とくに北米や南欧の穀倉地帯の乾燥は、農業生産を3割近く減少させて世界に食糧危機をもたらす可能性が強い。さらに気候帯が極方向へ数百km 移動するので、それに適応できない多くの生物種が絶滅し、生態系の破壊が世界各地で広範に進行するとみられる。
しかし、温暖化の影響はけっしてこれらだけにとどまらないだろう。なぜなら平均気温が2−3℃も上昇することは、人類がいまだかつて経験したことのない異常な事態を意味するからである。またこの気温上昇の速度も異常に大きいことが憂慮される。このため、IPCC報告(1990年)は、「このままでは重大かつ潜在的には破滅的ともいえる変化が生じる」と強い警告を発している。
以上のように、地球温暖化問題は、今や科学的な知見が集約されて、事態の緊急性に関する世界共通の認識がほぼ確立した段階に到達したとみられるが、必要な対策は、国際的には残念ながらまだほとんど手つかずの状況に置かれている。
私たちは、地球温暖化を防止するには、CO2の大気中濃度を安定化させること(これ以上増大させないこと)がまずなによりも必要であることを強調したい。IPCC報告(1990年)は、この課題を達成するには、人間活動によるCO2の排出を60%以上削減しなければならないと指摘している。したがって、CO2の排出量の安定化では温暖化をほとんど防止できないことは明らかである。
CO2の大気中濃度の増大は、その約80%が化石燃料の燃焼に由来し、これによって放出されるCO2の量は、1990年には年間約59億トン(炭素量)に達している。なおCO2濃度増大の残りの約20%は森林の減少にもとづくと考えられている。
したがって、地球温暖化防止対策の最重点課題が化石燃料に由来するCO2の排出量の削減にあることは自明であるが、この削減の具体的な目標がはじめて掲げられたのは1988年のトロントの国際会議であった。このときには、50%(当面は2005年までに20%)の削減目標に対して参加48カ国のすべてが賛同したことが注目される。しかし、その後の一連の国際会議では、この目標を条約や議定書のかたちで具体化する方針は棚上げされた。
1992年に締結された「気候変動枠組み条約」も、先進工業国がCO2の排出量を90年代の末までに以前(多分1990年)のレベルに戻すことを単に努力目標として定めたのみである。したがって、このような目標があいまいで拘束力のない取り決めによって地球温暖化を防止することはほとんど不可能であろう。
この条約はCO2の排出量を現状レベルに安定化させることを目ざしているとみられるが、IPCCの特別報告(1994年)によれば、排出量を安定化させただけでは、CO2の大気中濃度は今後少なくとも 200年間にわたって着実に増大しつづけることが明らかにされている。したがつて、この条約は早急に改定されて、拘束力のある目標があらためて定められるべきである。またCO2の排出削減を明確に義務づける議定書が締結されなければならない。
以上の考察から、地球温暖化を防止するには、化石燃料の消費量自体を大幅に削減する以外に方法がないことが理解されるが、化石燃料が世界のエネルギー消費の80%以上を供給している現状から見て、それをすぐに全面的に実施することはむずかしいであろう。また先進工業国と発展途上国に対してCO2の排出削減を一律に義務づけることも不公平である。なぜならこれまでの排出の大半が前者によるものだからである。
そこで私たちは、わが国を含むすべての先進工業国がまず率先してCO2の排出削減を誓約することを提唱する。具体的には私たちは、島しょ国連合(AOSIS)によって準備された議定書案を対策の第一歩として支持し、このような議定書が条約締約国会議ですみやかに締結されることを強く要請する。
多くの研究結果によれば、CO2の上記20%の排出削減は、多くの国において省エネを徹底させることによって実現可能であると考えられる。とくにこの点については、いくつかの工業国が1973年のオイルショック以後の10年間にエネルギー利用効率を年約2−3%の割合で持続的に高めた実績をもつことに注目したい。しかしその後は残念ながら石油価格の低落と共に省エネの努力が意図的に軽視されて現在にいたっている。このため、多くの研究者は、今後も世界全体で年2−3%の省エネを持続的に実現させることが可能であると報告している。
これはもちろんわが国でも同様であり、一次エネルギー供給量のうち65%が有効に用いられることなく熱として捨てられているのが現状である。したがって、融資の拡大などの適切な政策によって奨励されれば、今後、コジェネレーション、自動車の燃費向上、建物の断熱設備の改善、ゴミ発電、ヒートポンプなどの多様な方法を駆使して大幅に省エネを推進することが可能であるとみられる。また社会のシステム全体の変革によって無駄なエネルギー消費(たとえば自動車交通への過剰依存や軍事的生産活動)をなくす方向も極力追求される必要がある。
上記の第一段階目標の実現は、地球温暖化を当面かなりおくらせる効果を発揮するが、これを全面的にストップさせるには、21世紀の早い時期にCO2排出量をより大幅に(なお40%以上)削減しなければならない。このため、省エネの一層の推進に加えて、2020年前後の第二段階目標として化石燃料に替わるエネルギー源の確保が必要である。
このエネルギー源は、いうまでもなく、クリーンでかつ再生可能な環境保全型のものでなければならない。したがって、太陽光、太陽熱、小規模水力、風力、波力、潮力、地熱などのエネルギーの利用が個々の目的や地域の条件に応じて大幅に拡充されることが望まれる。原発は、現段階では使用済み核燃料を含む放射性廃棄物の処理と廃炉の解体に関して安全性を確立する見通しが立っていないので、到底環境保全型とはいえないものである。なお、CO2以外の温室効果ガスの排出削減も第二段階目標に含められるべきである。
日本政府は、1990年に「地球温暖化防止行動計画」とよばれる政策を定めた。この「計画」は、CO2の国民1人あたりの排出量を、2000年以降におおむね90年レベルにとどめることを目ざしている。しかし現実には、人口増を考慮に入れると、この政策は、CO2の総排出量が2000年の時点で90年レベルから数%増加するのを容認しており、温暖化の防止にはまったくほど遠いものである。なおわが国のCO2の総排出量は、最近では年に約2%ずつ増加しつづけている。
1994年に国連に提出された日本政府の国別報告書も、上記の「行動計画」にもとづいており、そこに示されている政策はやはり温暖化の防止に役立つものではない。私たちはこれまで4年間にわたって日本政府にこの「行動計画」を抜本的に見直し、CO2の排出を削減する計画を確立するように要請してきたが、これは残念ながら今のところ実現していない。
本提言に示した第一および第二段階目標が達成され、世界の化石燃料の消費がのべ60%以上削減されれば、人類は2030年頃までに地球温暖化問題を基本的に克服することに成功するであろう。しかしこれらの目標の達成は、おそらく、少なくとも先進工業国のエネルギー消費の総量を当面現状レベルあるいはそれ以下に抑えることを必要とするだろう。したがって、それらの国が従来と同じような「経済成長」路線を歩もうとする限り、これらの目標の達成、そして温暖化の防止はきわめてむずかしいといえる。
「経済成長」は、それが中長期的に見て永続可能な社会発展を保障するものであれば、一般的には是認されてもよい。しかし、永続不可能なレベルの大量生産と大量消費が地球環境を不可避的に脅かしている現在の状況のもとでは、「経済成長」を抑制してでもCO2の排出削減の目標が達成されなければならないだろう。これは疑いなくきわめて厳しい要請であるが、先進工業国が社会経済システムの抜本的な変革によってまずその範を示し、さらに発展途上国に対して、技術と資金の両面で献身的に援助することによって、世界が全体として永続可能な発展の道を歩むことが可能になるだろう。
地球温暖化問題は、一連の温室効果ガス(とりわけ二酸化炭素)の大気中濃度が増大することに由来する。二酸化炭素の増加の主要な原因は、いうまでもなく化石燃料の燃焼である。そして現状のまま推移すると、すべての温室効果ガスの二酸化炭素相当濃度が産業革命以前とくらべて倍加する2025−50年に、地球の平均気温が2−3℃上昇すると予測されている。
では、このときに地球環境にどのような変化が生ずるだろうか。まず海面水位が30−50cm上昇し、島しょ国や多くの沿岸地帯で陸地が大幅に水没する。また降水量が一般に増加し、洪水が多発すると共に、大陸内部では逆に土地が乾燥し、干ばつが激化する。とくに北米や南欧の穀倉地帯の乾燥は、農業生産を3割近く減少させて世界に食糧危機をもたらす可能性が強い。一方、気候帯が極方向へ数百km移動するので、それに適応できない多くの生物種が絶滅し、生態系の破壊が各地で広範に進行するとみられる。
このように、温暖化が私たちにもたらす被害は深刻であるが、必要な対策は、国際的にはまだほとんど手つかずの状況に置かれている。すなわち前記の「枠組み条約」では、二酸化炭素の排出削減が定められず、排出量を2000年までに1990年レベルに安定化させることが単なる努力目標として設定されたにすぎない。このため、たとえばわが国の二酸化炭素排出量は依然として年に約2%ずつ増加しつづけており、他の国々でも今のところこの控えめな目標すら達成しようという政策が示されていない。
ところで国連の報告によれば、地球温暖化を完全に防止するには二酸化炭素の排出量を60%以上削減することが必要である。しかし、これをただちに実施することはむずかしいので、とりあえず先進工業国が2005年までにこの排出量を1990年レベルから少なくとも20%削減することが現実的な目標として世界の多くのNGOによって提唱されている。またNGOだけでなく、政府レベルでも島しょ国連合(AOSIS)によって同じ目標を含む議定書案がベルリンの会議に提出されている。この目標を達成する課題は、おそらく人類が21世紀へ向けて地球環境保全への重要な一歩を踏み出すことができるかどうかの試金石とみなされるだろう。