日本政府の「地球温暖化防止行動計画」の問題点

1994年2月 CASA
 

 日本政府は1990年10月の関係閣僚会議で「地球温暖化防止行動計画」とよばれる政策を定めた。しかし、この「計画」は、以下にその問題点を記すように、地球温暖化の防止にはもったく程遠いものであり、欺まん的な性格が強いともいえる。また、政策決定後の3年の経過を見ても、温暖化防止に寄与する何らかの実績が、この「計画」によって得られたとは認められない。

 二酸化炭素の排出を抑制する目標が、「国民1人あたりの排出量について2000年以降におおむね1990年レベルにとどめる」と定められているが、これは、削減を意図していないだけではなく、人口増を考慮に入れると、総排出量が2000年以降に1990年レベルから約6%(1988年レベルからは約12%)増加するのを容認するものである。また「おおむね」という表現は目標をあいまいにする役割をはたしている。

 「計画」には、上記の目標とは別に、「革新的な技術開発の発展によって、二酸化炭素の排出総量を2000年以降におおむね1990年レベルにとどめるよう努める」という努力目標も掲げられている。しかし、これは、逆に技術の発展がなければ達成されなくてもいいことを示しており、ほとんど無意味な目標である。

 以上の二酸化炭素の排出抑制目標について、「先進主要諸国が排出抑制のために共通の努力を行うこと」を達成の前提条件としている。したがって、他国の取り組み状況によっては、目標が達成されなくてもよいことになる。各国がこのようにたがいに足を引っぱり合って対策を怠ればどうなるかは説明を要しないだろう。

 メタンについては「現状の排出の程度をこえないこと」とし、亜酸化窒素等については「極力その排出を増加させないこと」としているが、削減目標とその達成期限が明らかにされていないのでまったく不十分である。

 「計画」は、たとえば二酸化炭素排出抑制対策として、都市構造、交通体系、生産構造、エネルギー供給構造などの改善を具体的に提唱している。このことは一応評価されててもいいが、それらの方策はあまりにも総花的に羅列されており、それぞれをいつまでにどれだけ達成するかという計画がまったく定められていないのが問題である。これではすべてが「絵に書いた餅」になりかねないだろう。

 前記の改善策は提唱されているものの、エネルギーの浪費をなくし、総エネルギー需要を減少させるという観点から現在の社会システムに根本的なメスを入れるという意図が示されていない。たとえば、巨大開発や軍事活動の縮小、または見直しを行う計画は含まれていない。

 「計画」は、二酸化炭素の排出削減を口実として、発電部門における原子力の開発利用を積極的に推進しようとしている。たとえば、「計画」には示されていないが、日本政府の2010年の代替エネルギー供給目標では、原子力が全体の30.8%を占めている。このように「計画」は、再生可能な環境保全型エネルギー利用へ向けて政策を抜本的に転換する方針を示していない。

 「計画」は、「地球規模の森林の保全造成等に積極的に取り組むこと」を定め、国内の森林の保全整備については、いくつかの対策を提唱しているが。日本の商社などの企業活動による熱帯林の伐採を規制する方策についてほとんど触れていない。「国際熱帯木材機構(ITTO)の活動に協力して熱帯木材貿易の適正化を図る」とは記されているが、これではまったく不十分である。

 「計画」発足後の初年度である1991年度の日本の二酸化炭素排出総量は、炭素換算で3,24億トンであり、1990年度とくらべて1.9%増加した。また同じく国民1人あたりの排出量は、炭素換算で2.61トンであり、1990年度とくらべて1.6%増加した。これらの数字は、この「計画」が有名無実のものであり、すくなくとも二酸化炭素の排出抑制にはほとんど効力を発揮しないことを示している。かりに今後もこのペースで排出量が増加しつづけるとすれば、2000年には総量で1990年レベルから20%近く増加することになる。これでは、「温暖化防止行動計画」ではなくで「温暖化促進行動計画」であるというべきだろう。


 
地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)