世界NGO、東京サミットに要望書提出
CASAも署名者に参加
1993年7月に開催された「東京サミット(先進7カ国首脳会議)」に対して、関係諸国のNGOは共同して要望書を提出し、地球環境問題に最も大きな責任を負うべき大国指導者に具体的対応を要求した。CASAも呼びかけに応じて岩本代表理事の名前で署名者に加わり、サミット期間中に東京でとられた行動にバンウィンクル事務局員が参加した。要望書は英文にしてA4版7ページに及ぶ文書であるが、以下にその要旨を掲載する。
親愛なるG7指導者のみなさん
あなた方が東京経済サミットを開かれる時期は、リオデジャネイロで開催された地球サミットの1年後にあたります。あなた方が直面する任務は、リオで確認された公約と目的を実現していく上で、具体的な行動を示すことです。G7諸国が大胆にして創造的なリーダーシップを発揮することによって、先進国においても途上国においても、世界は地球サミットで採択されたアジェンダ21が永続可能な開発を実現していくための原動力となり続けていることを確信できるのです。
昨年のミュンヘン・サミットにおいて、あなた方は地球サミットのフォローアップを攻勢的に進めることこそ、その真の成功につながることを確認されました。東京経済サミットにおいても、あなた方は首脳同士の論議のなかで、永続可能な開発の問題についてとくに多国間共同行動に焦点をしぼることを、私たちは要望するものです。以下の事項は、私たちの主要な勧告であります。(以下、要点のみ)
世界銀行の改革
現在、世界銀行その他の国際金融機関の行っていることは、発展途上国における永続可能な開発の推進というより、むしろ妨害である。旧態依然たる開発戦略と貧弱なプロジェクトの立案・実施とによって、多くの環境的、社会的に有害なプロジェクトを生み、途上国の債務危機をいっそう悪化させている。G7諸国は、世界銀行が責任を持って環境改善と永続可能な開発を再優先するような行動計画を進めるべきである。また世界銀行を監督するため常設の「苦情処理第三者委員会」を創立する必要がある。本委員会は、市民グループの申し立てを受け、乱暴な投資計画や借款協定を監察するとともに、世界銀行資金による環境と人権侵害を処理するものである。
さらに世界銀行の事業は、省エネ、温室効果ガス削減などに振り向けるべきである。そのためには、従来、大規模水力発電、石油・石炭プラント、原子力施設の開発を推進してきたWASPといわれるコンピューター・モデルを廃棄すべきである。
最後に、G7は農業部門における永続可能な開発のため、世界銀行がこれまでの政策を再検討するよう、指導することを要求する。
地球環境資金制度(GEF)
G7はGEFが試験期間を過ぎた時期に、独自に監査することの重要性を認識するべきである。GEFは世界銀行の支配下にあってはならず、たとえば「気候変動」と「生物多様性」の2つの条約の財源的基礎に貢献しなければならない。G7はGEFの運営をガラス張りにするよう努めなければならない。
気候変動
1989年以来、G7経済サミットは、気候変動問題の重要性は強調してきたが、実質的には協調的行動はまったく見られなかった。東京サミットはこれまでの宣言から実行に踏み出すべきである。
G7はただちに気候条約の発効に尽力し、とくに先進工業国における温室効果ガス排出量を2000年までに1990年レベルに抑制するよう誓約し、交渉に入るべきである。エネルギーの価格は、環境的、社会的コストを正確に反映して算定すべきである。排出量削減は、再生可能エネルギーの実用化と並行するものである。これらの実行に際して、貿易と関税に関する一般協定(GATT)が妨害者とならないことをG7は保障すべきである。環境保全型のエネルギーと交通事業に努めるべきである。大規模な道路建設、石炭火力、水力発電、原子力施設を見直し、エネルギー効率、再生可能なエネルギー供給、クルマに頼らない公共交通体系を重視すべきである。
人口
現在の世界人口は約55億人。これが21世紀には2倍になるだろう。その大部分は途上国によるものである。先進国では人口増加率は低いが、人口一人あたりの資源消費量は圧倒的に大きい。地球サミットはこの問題に正しく対処できなかった。G7は、カイロで開かれる「人口と開発に関する国連会議」の成功のため力を尽くすべきである。
ロシアと東ヨーロッパ
ロシア、および民主化のため苦闘する東ヨーロッパ諸国に対する経済援助は引き続き強化しなければならないが、同時に危険な原子炉の廃止、北極海汚染の防止、エネルギー効率の改善と温室効果ガス削減などについても、G7指導者はこれら諸国への財政援助を協議し、合意すべきである。
債務削減と国際通貨基金(IMF)改革
最貧国においては、累積債務によって永続可能な開発が阻害され、教育、医療、環境保護のためのわずかな財源までが、その返済に充てられている。これらは世界銀行と国際通貨基金の失策が原因である。材木や鉱物の輸出のために国土が荒廃し、輸出作物栽培のために、食料不安と環境破壊が進んでいる。これらはサハラ以南のアフリカでとくに深刻である。先進国は、メージャー首相が提唱し、コール首相も同意した「トリニダード条項」に基づき、債務の残額返済期限を抜本的に見直すべきである。
国際貿易と環境
環境に責任をもった国際貿易は、永続可能な開発のためにもっとも重要である。しかしこれらは未だに競合関係にある。ウルグアイ・ラウンドは貿易と関税に関する一般協定(GATT)全体の改革の第一歩と考えられているが、何よりも環境のために必要な改革が優先されるべきである。G7諸国は、包括的な環境上の誓約が確立されるまでは「多国間貿易機関(MTO)」設立の交渉に入るべきではない。G7は、各国が環境保護、公衆衛生と労働安全を公正に実施する固有の権利を侵害しないようにウルグアイ・ラウンドの条項を変更する義務がある。同時に、これらに公衆の参加を認めなければならない。環境保護を取り扱った国際協定の好例が1987年のモントリオール議定書および1990年のロンドン改定である。世界気候条約も同様である。G7としてはウルグアイ・ラウンドの条項に、国際貿易実施にあたっては環境問題に関わる国際条約を遵守することをGATTとして公認することを保障すべきである。
永続可能な開発に関する委員会(CSD)
「永続可能な開発に関する委員会(CSD)」は、世界銀行などの国際機関の透明性と情報接近の可能性を高める手段となりうる。また水質、気候変動などの環境、開発問題の取り組み強化の可能性もある。G7はCSDに必要な財源と政治的援助を行い、地球サミットで与えられた重要な役割を果たせるようにしなければならない。
熱帯林の保護
G7諸国は「ブラジル熱帯林保護のためのパイロット・プログラム」提起する第一歩を踏み出した。同国の政治的、経済的危機にも拘らず、ブラジル政府当局がこのプログラムを実施するよう、希望を表明すべきである。国連先住民年に鑑み、G7指導者は天然林保護に果たす先住民の役割を認識すべきである。G7は、貿易、債務など森林破棄の原因の根絶を最優先すると共に、森の住民の利益を守る活動を尊重すべきである。