「今回提出された政府提案の環境基本法案は、1992年6月に開催された国連環境開発会議(UNCED)の政府間会議で採択された「リオ宣言」と比しても、趣旨・目的が十分生かされていないのみならず、従来の我々の主張とも相当かけ離れているといわざるをえない。」
第1に、リオ宣言10は、環境問題に関する意思決定に、市民が関連情報を適正に入手し、参加する機会を有しなくてはならないとされているのに、本法案の策定過程では殆どそのような手続きがとられなかったことはまことに遺憾である。
第2に、リオ宣言4は、持続可能な発展を達成するため、環境保護は、開発過程の不可分の部分となるべきで、分離しては考えられないとして「環境と開発の統合」を必要としている。本法案では、環境保全の枠内でしかなく、環境と開発の統合の考え方にたっていない。それ故に、その実効性にあまり期待できないといえる。
われわれは、同法案の国会審議にあたっては、上記の点を十分組み込んで十分な審議を得て、法制化をはかることを強く希望し、以下の点について意見を述べる。
また、環境への負荷によって環境が損なわれるおそれがあるので、現在および将来の世代の人間が健全で恵み豊かな環境の恵沢を享受するとともに人類の存続の基盤たる環境を将来にわたって継続するよう環境保全を適切に行わなければならないとする。(3条)
しかし、「環境の保全」を、「環境への負荷をできる限り低減すること」ととらえることは、リオ宣言7の「地球生態系の健全性および完全性を、保全、保護、修復する地球的規模のパートナーシップの精神」の考え方からすると著しく不十分である。
何故かというと、「環境の保護」の内容は、上記宣言の趣旨から考えると、地球上の大気や水等を含む環境資源と地球生態系の保護、保全、修復管理ととらえるべきだからである。
政府案の「環境への負荷」とは、現在の典型7公害と自然環境法則で指定された区域での規制対象行為と、第2条2項にいう限定された地球環境保全への負荷に限られるのである。そうなると政府案全体の性格は、従前どおりの限定された範囲の環境規制法にとどまることとなる。国民に開かれた環境資源管理法としないと、上記のリオ宣言の精神と一致することにならない。
また、第4条の「科学的知見の充実の下に」という点は、第1に「科学技術による問題解決」による環境負荷の低減に頼りすぎであり、第2に「科学的知見の欠如」を口実とした対策の先送りにつながりかねない。いずれにしても国民の環境保全の意欲をベースにした「下からの環境保全」という考え方の軽視につながりかねないといえよう。
環境基本法の理念は、環境を現在及び将来の世代から信託された地球公共財としてとらえ、永続可能な地球環境を確保し、環境資源を、社会的正義・公平と生態学的諸原則の下に管理し、良好な環境を総合的に創造し、再生可能な資源の質を高めることを目的とすべきである。
政府案4条に相当する環境政策の基本理念としては、次のような原則によるべきである。
(1) すべての政府の政策が、地球益に適合するよう、環境優先の原則のもとに、環境に開発を統合して、かつ体系的なものであること。(2) 環境と開発の意思決定過程が合理的でかつ公正、透明で国民のアクセスが容易なものであること。
(3) 原因者負担主義の貫徹と被害者救済制度の強化を行うこと。
(1) 各人が、自ら良好な環境を享有する権利を有すること。(2) 各人が、現代及び将来の世代から信託された環境保全管理義務の行使としての環境管理権を有すること。
(3) ドイツ環境法典案総論編15〜17条のような規定をおくこと。
このように、環境基本計画が単に従前からの環境庁権限事項に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るものであるならば、従前のシステムと大差なく、実効性は少ない。
リオ宣言の「環境と開発に関する意思決定の統合」という理念のために、アジェンダ21第8章A行動でのべられているような規定が確保されるべきでる。
(a) 経済、社会、環境に関する配慮の統合を全てのレベル、全ての省庁における意思決定において確保すること。これらの点について、ドイツ環境法典草案19条の環境管理計画の課題と概念、20条環境管理計画の諸原則、21条生態学的考慮の必要、他の諸計画への配慮、第22条策定手続き、第24条広域地方環境管理計画、第25条地域環境管理計画の規定が参照されるべきである。(b) 政府の開発過程に含まれる種々の政策、計画および政策手段に環境配慮の仕組みを確保する手続きを設けること。
(c) (b)の環境配慮に関する長期的基本的事項は、環境基本計画に定め、具体的な事項は配慮規範は、「地域別生態環境管理計画」を自治体主導のもとに策定すること。以上の計画は国民の参加に基づく開かれた手続きによること。
(d) 開発過程を系統的に監視し、評価し、環境の状態を定期的にレビューすること。
(e) 経済及び各分野別の政策の環境面に透明性及び信頼性が確保されていること。
米国の国家環境政策法(NEPA)のように、環境に影響を与える国家の基本政策はもとより、その後の各段階の行政計画・行政過程においてアセスメントを義務づけなければ効果がない。さらに効果的な住民参加が不可欠である。
環境アセスメントに関する法律は、先進国では多くの国で制定しており、発展途上国でもすでに幾つかの国が制定している。したがって環境先進国と自称する日本は、環境基本法に環境影響評価は法律で定めると明確に規定すべきである。
また、環境基準の策定手続きにおいては、米国の規則制定手続きのように、公聴会の開催など住民参加に関する手続きを規定すべきである。
自然環境の保全については「保護に支障を及ぼす」場合に規制の措置を講じることになっているが、地域生態環境管理計画に適合するよう開発計画の段階から規制の措置を講じるようにすること。
公害被害の救済についても上記と同様であるが、今なお深刻化している被害救済と今後発生する被害の救済を明記すべきである。
国は、国際協力を推進する上で、民間団体等が本邦以外の地域において地球環境保全等に関する国際協力のため、自発的に国際会議等の出席に要する費用を支弁するための基金制度を設けるようにすること。
また、事業者(多国籍企業も含む)の本邦以外の地域における事業活動についても、我が国における規制基準に適合することを義務づける措置を講ずること。
また、負担範囲についても、政府案では、支障の原因となると認められる程度を勘案するとなっているが、因果関係が明確でない場合が多いことも考えられるので、公害等に係る支障の現存をもって、因果関係の推定を認める規定を設けるべきである。
基本法第44条の公害対策会議の名称を改めるとともに、現在の典型7公害以外(例えば地球温暖化問題やフロンガスによるオゾン層の破壊など)の環境対策に関するものを含め、基本的かつ総合的な企画について審議できるようにすること。
都道府県環境審議会、市町村環境審議会も委員の選任について、当該地域の環境保護団体の推薦委員を加えること。