1990年10月19日
内閣総理大臣

海 部 俊 樹 殿

地球環境と大気汚染を考える全国市民会議
CASA:Citizens Alliance for Saving the Atmosphere and the Earth
代表理事山村恒年
代表理事泉 邦彦
代表理事下垣内博
代表理事岩本智之
代表理事ハーヴィ・シャピロ
代表理事ジェームス・グリフィス
 

地球温暖化対策についての要請書

 

 人類の直面している地球環境の危機は予想以上に深刻です。

 オゾン層破壊物質に対しては、当初の削減計画を全面的に見直し、第2回モントリオ一ル議定書締約国会議(6月27〜29日、ロンドン)では「2000年全廃(メチルクロロホルムは2005年全廃)」を決定しました。それでも「21世紀中のオゾン層破壊をより少なく防ぐためには、全廃時期を早めるべきだ」との批判がたえません。

 地球温暖化については、気侯変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4回総会(8月27〜30日、スウェーデン、スンツバル)で「検討報告」か採択され、地球温暖化についての「科学的知見」「環境並びに社会経済に及ぽす影響」「対応戦略」が発表されました。この報告は温室効果ガス農度を現在レベルに安定化するには、人為的な温室効果ガスを60%以上、直ちに削減する必要があること、なんの対策も講じない場合、地球温暖化によって嚢林業、生態系、水資源、大気質、人間の健康、居住条件などに「破滅的変化」が生じる、などを明らかにしています。

 ところがIPCC報告は、一刻も早い「対策」を促しながら、かんじんの炭酸ガス等の温室効果ガスの削減目標値を決定していません。

 日本政府も6月18日の「地球環境保全閣僚会議」で、地球温暖化対策の基本方針は決めましたが、「行動計画」の策定は今秋にもちこし、10月23日の「閣僚会議」で正式決定する、と聞いています。

 10月29日より始まる第2回世界気候会議を目前にひかえ、地球環境破壊と汚染に主要な責任を負う先進工業国こそ「地球温暖化防止」ヘの貝体的行動計画と目標値を明示すべきてある、と私たちは考えます。

 地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)は、地球温暖化防止について、1989年5月の「NGOナイロビ宣言」並びに同年9月の「地球環境と大気汚染防止のための京都・大阪アピール」を支持し、さらに本年10月9日大阪でひらかれた「ストップ地球温暖化一日本の責任と役割を考える市民の集い一」の討議をふまえ、次の対策が必要であると考え、ここに要請書を提出いたします。よろしく御配慮のうえ、とりあげて下さいますようお願いをいたします。
 
 

1. 化石燃料の燃焼量を大幅に低下させて、今世紀未までに二酸化炭素の放出量を1986年レベルから20%(できれば30%)削減すること。

  また、2015年までに同じく60%削減すること。
 

2. そのため、総合エネルギー調査会の「長期需給見通し」、電気事業審議会の「需給部会中間報告」は全面的に見直すこと。

(1)エネルギー多消費の経済成長は止めること。

(2)エネルギー多消費の生産構造は抜本的に改めること。

(3)地球温暖化防止に名を借りた原子力発電の維持・拡大は行わないこと。(計画では、2010年度までに、現在の3148万キロワットから4102万キロワットを増やし、7250万キロワットの出力維持)

(4)グローバルな電力・工ネルギーシステムの実用化(超電導ケーブルなど基幹技術開発)、ソーラーシステム補助制度の見直しと普及、変換効率の引き上げ、ゴミ発電の実証プラントの開発などに努め、原子力開発利用予算を削減し、新エネルギ一研究費の予算を大幅に増やすこと。

 そのために、

   (ィ)太陽光発電利用への制度的改正を行うこと。

     (例えば、住宅用等太陽発電の既存配電線への連係一逆潮流可能)

   (ロ)国民への理解を求めるPRを実施すること。

(5)熱源の複合利用システムとして、コージェネレーションシステムを促進すること。

(6)エネルギー効率の一層の向上と省エネルギーを徹底すること。

 

3.オゾン層を破壊し、かつ地球温暖化を増大させるオゾン層破壊物質の全廃期限を早めること。

 オゾン層破壊物質のうち特定フロンは1992年(遅くとも1995年)までに全廃すること。
 

4.私企業、多国籍企業および政府による熱帯林の破壊を禁止し、そこに住んでいる人たちの意志に基づく森林資源の持続的管理に最大限の努力を払うこと。

 

5.国内の森林を保全し、木材の自給率を高めること。

また、

(1)木材の使い捨て型利用は止め、再利用、再生紙利用を普及・促進すること。

(2)大都市における開発を厳しく規制し、思いきった緑の空間を確保すること。
 

6. 膨大な産業廃棄物の発生を少なくするために、

 (1)有害廃棄物、処理困難廃棄物については製造者の責任の明示を求め排出者回収責任とデボシット制を採用すること。

 (2)再利用・再資源化の促進。そのために現行の廃棄物処理法を、処理と共に再利用、再資源化を目的とする法律に改めること。
 

7.窒素酸化物、硫黄酸化物および浮遊泣子物質による大気汚染を防止するための規制を強化すること。特に政府は、各地域の環境汚染と健康被害の実態を詳しく調査し、それに基づいて生活環境の保全対策を十分に講ずること。

 

8.過度の「車社会」からの脱皮を目指し、鉄軌道輪送など公共交通体系を優先的に見直すこと。また、ディーゼル車を排除し、ソーラーカー、メタノール車化の促進、自転車活用の推奨など行うこと。

 

9.日米構造協議による10年間公共投資430兆円(JR、NTTを加えると455兆円)の使い方によって環境破壊が促進し、インフレを引き起こす危険性が大きい。

 公共投資は、我が国の実情に見合った適正な投資規模とし、環境破壊ではなく国民生活の充実、快適な環境作り、保全に使うこと。
 

10.我が国をはじめ先進工業国は、発展途上国住民の意志を無視し、環境破壊と人権を奪うようなODAのあり方は根本的に改めること。

以 上

地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)