地球環境保全と大気汚染防止のための京都・大阪アピール

1989年9月8日
 
 

 私たちにとってかけがえのない地球が、いま、人間の社会的な活動によって急速に破壊されつつあります。まず、地球上の生命を太陽の有害な紫外線から守っているオゾン層がフロンガスによって破壊されはじめています。南極のオゾンホールはその最大の現れですが、北極やその他の地域でも予測をはるかにこえるテンポでオゾンが減少しつつあります。

 また大量の化石燃料の燃焼が大気中の二酸化炭素の濃度を飛躍的に増大させつつあり、その「温室効果」によって気候が変わり、地球が熱くなりはじめています。そして大気中のメタン、フロンガスなどの増加と森林、ろくに熱帯林の減少がこの地球の温暖化に拍車をかけています。その結果、このままでは2030年頃に地球の平均気温が3〜4度C上昇すると予測されています。これは人類がいまだかつて経験したことのない異常な事態を意味します。

 一方、広範囲の大気汚染によってもたらされる酸性雨が国境を越えて降り注ぎ、重大な問題になっています。このため、広範な地域の森林が枯れ、多くの生物の生存が脅かされています。また地球大気の急速な変化がこの生態系の破壊を促進し、地球上の生物種の多くが、科学者の予測をはるかに上まわる規模で絶滅の危機にさらされています。人間活動による熱帯林の破壊もこのような生命の喪失をもたらす大きな原因です。さらにこれらの地球環境の破壊は、食糧生産および食糧の安全性にも深刻な影響をおよぼし、人類の生存にとってもきわめて重大な事態を生みだしています。

 このような地球規模の環境破壊は、最近の20〜30年の間に起こったことです。その原因の多くは日本を含む先進工業国の産業活動に由来します。とくにフロンガスについては、1974年の警告以後もこれを15年間にわたって大気中に放出しつづけたことの責任は重大です。なかでも、日本の産業界は、この期間にフロンガスの生産量を3倍異常に増大させてオゾンホールの発生を大幅に助長するとともに、東南アジア地域の熱帯林の大量伐採をもたらす経済活動を推進して地球の温暖化をスピードアップさせました。また、日本のこのような経済活動は東南アジアだけでなく、他の地域の熱帯林でも広がり始めています。したがって、日本の「繁栄」は、このような産業活動による地球環境の破壊の上に築かれたものであるといっても過言ではありません。

 環境問題に対する日本のこのような姿勢は国内の公害に関しても見られます。日本政府は、「もう公害は終わった」として昨年あらたな大気汚染公害被害者の救済を打ち切りました。しかし、最近の窒素酸化物と浮遊粒子状物質の汚染は過去10年間で最悪の状況を示しています。またトリクロロエチレンなどによる地下水汚染やアスベストなどによる一般生活環境の汚染はまったく改善されていません。日本が、公害が無くなったと言えるような状況になうことは明らかで、いまも公害被害者はあらたに増え続けています。

 このままでいけば、人類は21世紀に破滅的な危機を迎えます。そしてその時になって危機防止のために立ち上がってももう手遅れでしょう。破滅を回避するには今ただちに必要な対策を実行に移さなければなりません。時間的な余裕はあまりなく、今世紀の残された10年の動向が21世紀全体の地球と人類の運命を決定するともいわれています。そこで私たち2つの国際機関(ELCIおよびIEW)および9カ国のNGOの代表が会議を開催し、討議した結果、つぎの10項目を、地球環境保全と大気汚染防止のためにすみやかに実行すべき対策として、全世界の関係諸機関、とりわけ日本政府に提唱します。

1. モントリオール議定書を改定して、

(a) これまでに規制対象とされている5種のフロンガスと3種のハロンに加えて、1.1.1-トリクロロエタン(メチルクロロホルム)、四塩化炭素などのすべてのオゾン層破壊物質を規制対象に含めること。

(b) 1992年(遅くとも1995年)までに、5種のフロンガスと3種のハロンを全廃し、さらにその他のオゾン層破壊物質の生産量と消費量を大幅に削減すること。

(c) フロンガスとハロンの代替物質が温室効果能力をもつ場合には、それらも規制対象とすること。

2. すべての生産過程と製品に含まれるフロンガスおよびその他のオゾン層破壊物質を最大限に回収し、再利用すること。さらに、それらの再利用や破壊(分解)のために用いられる技術が安全であり、かつ汚染をもたらさない(たとえばダイオキシンを排出しない)ことを確認すること。

 また、それらの代替物質の開発と利用が私たちの健康や環境を脅かす可能性のないことを確認すること。

3. 工業国は、「政府開発援助(ODA)」とは独立に、発展途上国に対する技術および資金援助をおこなうこと。この援助は次の基本原則にもとづいておこなわれること。
 

(a) 過去におけるフロンガスと温室効果気体の排出の大部分が工業国に由来することを認識すること。

(b) 工業国と発展途上国との間のエネルギー消費の不平等を解消する必要性を認識すること。

(c) 工業国で使われなくなったフロンガス生産技術を、発展途上国へ輸出することは許されず、技術援助に含まれないこと。また、将来問題になりうる物質の生産技術についても同様に考えること。

(d) 環境を破壊するODAは直ちに注しすること。

 「世界大気基金」を設立し、

(a) オゾン層破壊物質の段階的廃止と温室効果気体の排出量の削減を援助すること。

(b) 発展途上国の永続可能な発展を目指すこと。

4. 化石燃料(とくに石炭と石油)の燃焼量を大幅に低下させて、今世紀までに二酸化炭素の放出量を1986年のレベルから少なくとも20%(できれば30%)削減すること。

また、2015年までに同じく60%削減すること。

 この削減のために、当面エネルギー効率の向上と省エネルギーの徹底をはかり、さらに太陽光・風力・波力・小規模水力・地熱などの再生可能なエネルギーを全面的に利用する技術の開発に全力を尽くすこと。

また、地球温暖化防止に名をかりた原子力発電の理事・拡大を認めないこと。

 なお、発展途上国も上記の目的を実現できるように、工業国が代替エネルギーの利用技術などに関して強力援助すること。

 
5. 私企業、多国籍企業および政府による熱帯林の破壊を禁止し、そこに住んでいる人たちの意志にもとづく森林資源の持続的管理に最大限の努力を払うこと。

 とくに日本は熱帯雨林を損傷し、先住民の権利を侵害している地域からの熱帯木材の貿易と開発への投資をただちに中止すること。

 さらに、本シンポジウムは、アマゾン・サラワク・パプアニューギニア・コンゴその他熱帯林の破壊によって生活が脅かされている地域の人びとの窮状に重大な憂慮を表明する。

 
6. 天然ガスの生産・輸送時におけるメタンの漏出を防止するとともに、廃棄物や竣せつ土などからのメタンの排出および農業・牧畜活動に由来するメタンの排出の削減に努めること。

 
7. 窒素酸化物、硫黄酸化物および浮遊粒子物質による大気汚染を防止するための規制を強化すること。とくに日本政府は国内各地域の環境汚染と健康被害の実態をくわしく調査し、それにもとづいて生活環境の保全対策を十分に講ずること。

 
8. 日本政府は、今なお発生し続けている被害者を含むすべきの公害被害者をすみやかに救済すること。とくに、高濃度の大気汚染にさらされている地域および道路沿道を公害地域として指定し、被害者の救済を計ること。
 

9. 地球規模の環境破壊や地域的な公害の実態、原因、被害の予測および防止のための戦略に関する情報とデータを公開し、市民の「知る権利」を保障すること。とくに各国政府は、工業国であれ、発展途上国であれ、公文書に含まれる情報を公開するだけでなく、企業(多国籍企業を含む)に対しても、かれらが保有する関連情報の公開を義務づけること。

10. 各国においてオゾン層破壊、地球温暖化および地域の大気汚染がもたらす影響について、市民に対する教育を義務づけること。

 この教育には改革のためのプログラムも含めること。

 これらの環境問題に対処するには、情報に精通した活動的な市民の存在こそ不可欠である。


 今や地球が発するSOSは、人類の文明のあり方をも根底から問いただしています。とくに生産第一あるいは経済効率追求一辺倒の社会経済システムを見直すことがなによりも必要です。そしてそのために、私たちは、地球環境の破壊と汚染に加担してきた日本政府・産業界の責任を厳しく追及するとともに、便利さや快適さのみを求めてきたこれまでの生活様式をも全面的に見直すことが必要です。その意味で地球を救うために私たちひとりひとりの積極的な行動が強く望まれます。ここの提唱した対策の具体的な実施はもちろん、各国の政府や関係諸機関のとりくみに期待しなければなりませんが、それを促進させるものはそれぞれの国で展開される市民運動の力です。とくに条約づくりを軸にして対策が進められる場合によって大きく影響を受けることは間違いありません。

 したがって、当面する地球環境の危機を生みだした主要な国に属する日本で、私たちがこのシンポジウムを成功させたことに意義ははかり知れないほど大きいといえます。今のうちなら努力すればまだ将来破滅的な局面を迎えることは避けられます。私たちはそのことに確信をもって世界中の広範な人々と手をつなぎ、地球規模で考え、地域で活動し、21世紀以降に生きる子孫のために最大限の力をつくす決意をここに表明します。

1989年9月8日
地球環境と大気汚染を考える国際市民シンポジウム

地球環境と大気汚染を考える全国市民会議(CASA)